透明怪獣  ネロンガ ~ 『ウルトラマン』 第3話 「科特隊出撃せよ」

江戸の町を荒らした怪物、
見えない巨体が電気を喰らう!

 300年前、村井強衛門という侍によって倒され、伊豆半島伊和見山にある城廓の井戸(落城の際の抜け穴として岬の洞窟まで掘られた)に閉じ込められていた妖怪。歳月とともに井戸が寸断されて永い眠りから醒め、地下ケーブルから電気エネルギーを吸収、異常成長で巨大化し大怪獣となった。電気を常食とする特異体質に変貌したため、電子イオンの働きで普段は透明だが、吸電レベルに応じて姿を顕わす。頭部2本の角を前方に回転させ、鼻先の角のところでスパークさせて放つ強力な放電光線が武器だ。伊和見山の水力発電所、伊和送電所、そして関東一帯の電力を賄う第三火力発電所を次々に襲い、これら電気施設を破壊、伊豆を蹂躙した。ホシノ少年が放ったスパイダーで、目にダメージを受ける。ウルトラマンと肉弾戦を展開するが、角を折られ、弱ったところをスペシウム光線で爆破された。

意匠と造型

 別称、透明怪獣。普段は透明で、電気を喰らって自身の体を可視化する。『帰ってきたウルトラマン』のエレドータス(第15話)も同じ特性を備え持つが、この透明怪獣と電気の因果関係とは一体何か?空腹時に透明で、満腹時に可視化。つまり透明になることが能力なのではなく、むしろ姿を現わせることの方が、透明怪獣の本懐なのではなかろうか?しかしながら空腹時というのはつまり自身が危機の身の上、そのときに身を守るために不可視化するのは、やはり優れた能力と言うべきであろう。

 さてネロンガの面構えだが、先ず際立つのは、電気はおろか何でもかんでも貪欲に喰らいそうなワイドな口だ。そのバカでかい口から更にはみ出て生えた、下顎から上に向かう鋭い奥歯の牙は、傍若無人に暴れ回る凶暴さに色を添えている。

 頭部2本の角が前方へ回転、鼻先の角のところでスパークして電撃を放つ。この可動する2本の角と、スパークする鼻先の角に仕込まれた電飾は、機電を担当した倉方茂雄によるものだ。

 操演技術担当だった倉方は『ウルトラQ』の頃より、機電による様々なギミックを自ら考案し、怪獣の命づけに貢献した人物である。その代表的な仕事としては、ウルトラマンのカラータイマーやバルタン星人の発光しながら尚且つグリグリと回転する目玉、エレキングの互い違いに回転するアンテナ耳、メトロン星人の派手な電飾などが挙げられよう。

 ネロンガはその倉方の仕事の中でも、「発光」と「可動」が巧い具合にマッチした白眉な例だ。この機電操作によって、ネロンガが電撃を放つプロセスが、劇中効果的に表現されている。見ている方まで痺れてきそうな、まさに「ウルトラ原体験」だ。

 その角に施された可動と発光のギミックも面白いが、ネロンガの魅力は何と言ってもあの巨体だ。

 ネロンガの縫いぐるみは、東宝映画『フランケンシュタイン 対 地底怪獣(バラゴン)』(1965年)の怪獣バラゴンから、『ウルトラQ』のパゴス(第18話)への改造を経て引き継がれたものだ。バラゴンの胴体に高山良策が頭部を新造形したパゴスを、佐々木明が再び頭部をすげ替えて更に改造を施している。つまりネロンガは、バラゴンから数えて三体目なのだ。既に相当くたびれた感があるものの、この後マグラー(第8話)、そしてガボラ(第9話)と更に再流用されるので、ネロンガは「バラゴン改造遍歴」のまだ中間地点といったところである。背中に施された派手な黄色の塗装は、常食とする電気のイメージであろうか。その鮮烈なイエローが、「バラゴン改造怪獣」の中でも特に印象深い。

 パゴスネロンガマグラーガボラと、同じバラゴンの縫いぐるみを由来とする怪獣のそれぞれが、斯様にも印象の異なる顔を呈するのは、ひとえにデザインを手がけた成田亨の力量によるものである。東宝怪獣の縫いぐるみ改造予定を拒否し、自らデザインを手がけることを条件に『ウルトラQ』の途中から参加した成田だが、「不本意」とも取れるこの「重改造」においても決して手を抜かないのだ。パゴスの牛をモチーフとして無骨な顔、発光と可動ギミックを備えた角を持つネロンガの横に広い顔、そしてネロンガの顔をそのまま使用しつつも過剰なトゲのデコレーションによってそれを覆い隠したマグラー、特徴的な赤いヒレでもってネロンガのイメージを払拭したガボラと、まさに成田のウルトラ怪獣に傾けた熱情を思い知るものである。これらはもうバラゴンではない。成田の手によって生み出された新怪獣だ。





怪獣役者:中島春雄の名ファイト

 『ウルトラマン』屈指の「名ファイト」と評されるネロンガ戦。ネロンガを演じたのは、ゴジラ役者でお馴染みの中島春雄だ。つまり「ウルトラマン対ネロンガ」に、我々は「ウルトラマン対ゴジラ」という夢の対決を重ね合わせることができよう。もちろん第10話「謎の恐竜基地」における「ウルトラマン対ジラース」の方が、改造したゴジラの姿があからさまに顕現しているジラースを中島が演じているので、中身も外見も「ウルトラマン対ゴジラ」ということになるのだが。

 中島春雄は『ウルトラQ』ではゴメス(第1話)とパゴス(第18話)を演じ、『ウルトラマン』ではこのネロンガをはじめ、ガボラ(第9話)とジラース(第10話)を演じた。ゴメスジラースはゴジラの縫いぐるみを改造したものであり、またパゴスネロンガガボラは前述のとおりバラゴンの改造である。その肉体は“東宝気質”とでも言うべきか、とにかく中島は東宝怪獣の着ぐるみを流用したウルトラ怪獣を専門に演じており、東宝に所縁が無いものは僅かにキーラ(第38話)を挙げるばかりだ。

ネロンガ、胎動と転生

 ネロンガの初期設定は、「ネロンガ・アメーバが巨大化したもの」であった。初稿「恐怖のネロンガ」でのその正体は、「電気・ガス・ガソリンをエネルギーとするアメーバの1種、ネロンガ菌」とされていたのだ。  このアメーバという発想は、『ウルトラQ』がまだ企画段階だった頃の『WOO』に登場する「ゲル状の宇宙生命体」という設定を、引きずっていたのではなかろうか?事実『ウルトラマン』の企画段階でも、このアメーバ生物の設定は再浮上し、「凍結アメーバ」なるシナリオが書かれている。


 さてネロンガのシリーズを飛び越えての活躍を挙げてみよう。『ウルトラマンマックス』第29話「怪獣は何故現われるか」に、“牛鬼怪獣ゲロンガ”が登場する。これは『ウルトラQ』のときに未撮影に終わった「ゲロンガ対山椒ラウス」なるストーリーに登場する怪獣であり、40年のときを超えて具現化を見たその姿は、その名称とともに明らかにネロンガに再着想したものだ。

 尚、そのゲロンガの縫いぐるみを改造したネロンガが、『ウルトラマンメビウス』第21話「虚空の呼び声」において、宇宙の「怪獣墓場」に眠る怪獣として登場する。

 その『ウルトラマンメビウス』(2006年)に登場するマケット怪獣ミクラスは、ネロンガとエレドータスのデータによって吸電体質と電撃能力及び透明化能力を身につけている。一度はエレキング(『ウルトラセブン』第3話)の放電攻撃によって敗退したミクラスが、シリーズを飛び越えて電気能力を帯びるというのが面白い。ミクラスに電撃能力を与えたネロンガの、シリーズを超えた陰の活躍と言えるであろう。


 そして2007年。アーケード・ゲームのヒットを受け、BS系テレビ番組『ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル』の放送が開始された。その第3話においてネロンガは登場し、グドンやゴモラと壮絶なバトルを展開する。ファンとして、一度は観ておきたい夢の対決だ。特にネロンガゴモラの死闘は、重量級怪獣同士の激突とあって、その迫力には血湧き肉躍り血潮が沸騰する。


 また『ウルトラセブン』には「宇宙人15+怪獣35」なる幻の作品がシナリオとして存在するが、その中でネロンガは登場予定にあった。刮目すべきは物語後半。ピグモン発案の“ファイト・ファイト作戦”によって怪獣同士が激突、ネロンガは何と喰ってしまうというくだりがあるのだ。ネロンガゲスラを喰う!未映像化に終わってしまったことが、何とも悔やまれてならない。

 さて“ファイト・ファイト作戦”による怪獣同士のバトルを生き抜いたネロンガは、レッドキングエレキングペギラ・ジェロニモンらとともに“5強”として顔を連ねる。ウインダムアギラを一蹴し、ウルトラセブンさえ最大のピンチに陥れた五大怪獣の一のネロンガ。その雄姿は如何様であったか。想像を掻き立てられる。


鳴き声もバラゴンから

 ネロンガの鳴き声は、縫いぐるみ同様にバラゴンと同じものが使用された。これは『ウルトラマン』のスタッフに、東宝効果集団のメンバーが参加していたからであろう。



待望の破壊スペクタクル

 膂力の誇示。巨体が繰り広げる破壊スペクタクルは、怪獣ものの醍醐味だ。市街地を、建造物を、破壊の限りを尽くして進撃する。地上に我が物顔で君臨する人類が、築き上げてきた集積・栄華なんぞひと捻り。ネロンガはゆく。己の食欲充足のために、ただひたすら襲う。発電所を、送電所を。崩されるボタ山。巨体に押し潰される発電施設。グニャグニャにへし折られる鉄骨の構築。圧倒的な力の行使の前に、見るものは息を飲むばかりである。生命活動をすること自体が「破壊」に直結する大怪獣の存在に、我々は魅了されるのだ。

 飯島敏宏監督による制作区分「Aブロック班」3本持ちのうちのひとつであるこの大怪獣ものは、第3話にして初めて怪獣の破壊スペクタクルを白日下に晒す。 第1話のベムラーでは竜ヶ森湖畔という郊外が舞台で、目立った建築物破壊は殆んど皆無であった。第2話のバルタン星人は舞台こそ市街地なのだが、夜という暗さでその様相も判然とせず、専ら破壊光線に頼った破壊である。そしてようやく迎えたこの第3話で、ネロンガが昼時の明るさの中、大破壊を成し遂げてくれるのだ!放電光線による攻撃もあるのだがしかし、自身の身体で直にねじ伏せる破壊スペクタクルを展開する。これこそ大怪獣の本懐と言うべきであろう。3台のカメラが同時に回されたその破壊場面の迫力に、俄然注目である。

 クライマックスは、勿論ウルトラマンとの血戦だ。ネロンガの巨体に対して、細身のウルトラマン。このコントラスト、この対比に、見るものの脳裏に「ウルトラマン不利」がよぎる。しかし力で押しまくるネロンガを、力で押し返すウルトラマン。力と力の激突。ウルトラバトル屈指の力強いこの格闘シーンは、ネロンガの破壊スペクタクルとともに、俄然この回の見どころである。







子どもへの慈愛、怪獣への愛着

 本エピソードの脚本を手がけたのは、『ウルトラQ』の頃より子どもらの活躍を慈しみを持って活き活きと描いてきた山田正弘だ。『ウルトラQ』第6話「育てよ!カメ」の太郎、第12話「鳥を見た」の三郎、第14話「東京氷河期」の治男、第15話「カネゴンの繭」の金男、第18話「虹の卵」のピー子。これらは全て山田の筆による少年少女だ。

 このネロンガの回においても、科特隊のマスコット的存在であるホシノ少年が、不気味な呻なり声のする古井戸をフジアキコ隊員とともに調査し、更にはスパイダーを持ち出しその射撃でネロンガの目にダメージを与えるという活躍を描いている。怪獣撃退劇の王道の中に、チラと垣間見える「山田色」だ。

 『ウルトラマン』における山田脚本作品の子どもらの活き活きとした姿は、第6話「沿岸警備命令」のホシノ少年たちや第9話「電光石火作戦」の山岳少年団、そして第36話「射つな!アラシ」における児童会館に閉じ込められてしまった子どもたちにも顕著である。

 バラゴンの縫いぐるみを改造した怪獣、すなわちパゴスネロンガマグラーガボラが登場する各物語で、マグラーを除く3怪獣については全て山田正弘脚本作品である。そもそもガボラが登場する第9話「電光石火作戦」ではパゴスが再登場する予定(「パゴス反撃指令」というタイトル)だったので、その流用は当然だったのかもしれない。しかしながらひとつの怪獣にこだわった、作者の怪獣に対する「愛着」が窺えよう。














































ウルトラ 場外 ファイト

 放電を攻撃手段とするウルトラ怪獣は数多い。おそらくは、火炎攻撃の次くらいに多いのではなかろうか。ここでは、印象に残る“電気系”怪獣をいくつか挙げてみよう。


ネロンガ
(『ウルトラマン』
第3話):
吸電と放電攻撃、
そして透明化。
エレキング
(『ウルトラセブン』
第3話):
長い尻尾を
相手に巻きつけ、
放電攻撃。
シーゴラス・シーモンス
(『帰ってきたウルトラマン』
第13・14話):
夫婦揃っての
放電攻撃は痛烈。
エレドータス
(『帰ってきたウルトラマン』
第15話):
ネロンガ同様、
吸電と放電攻撃。
そして透明化。
ビーコン
(『帰ってきたウルトラマン』
第21話):
電離層より飛来。
電波吸収と
電気ショック攻撃。
プラズマ・マイナズマ
(『ウルトラマン80』
第49話):
電撃光線は、
2体合体によって強大に。
バゾブ
(『ウルトラマンダイナ』
第34話):
その名も
宇宙スパーク大怪獣。
パズズ
(『ウルトラマンガイア』
第22話):
過剰に大きな角から放つ、
雷攻撃。
エレキング
(『ウルトラマンマックス』
第2・27話):
別称も潔く「放電竜」に。


ウルトラ 場外 ファイト

機電・倉方茂雄の歴戦!

  • 『ウルトラQ』
    ◆カネゴン(第15話):
    頭頂部の回転。
    ◆ケムール人(第19話):
    発光と回転する目。
    ◆ゴーガ(第24話):
    ドリルの回転と蠕動。
  • 『ウルトラマン』
    ◆ウルトラマン:
    ダイオードを使用した
    カラータイマー。
    ◆バルタン星人(第2話):
    発光しながら回転する
    目玉。
    ◆ネロンガ(第3話):
    2本の角の回転と
    鼻先の角がスパーク。
    ◆ギャンゴ(第11話):
    回転するアンテナ耳。
    ◆グビラ(第24話):
    高速回転する
    鼻先のドリル。
    ◆ザンボラー(第32話):
    鼻先の角と背中中央の
    トゲ群が発光。
    ◆メフィラス星人(第33話):
    口にあたる部位の発光。
    ◆ザラガス(第36話):
    角と全身から放つ
    六千万カンデラの光。
    ◆キーラ(第38話):
    サーチライトのような
    両眼。
    ◆ゼットン(第39話):
    顔中央部の発光・明滅。
  • 『ウルトラセブン』
    ◆エレキング(第3話):
    アンテナ耳の回転。
    ◆ゴドラ星人(第4話):
    顔中央部の明滅。
    ◆ビラ星人(第5話):
    可動する6本の触手。
    ◆ペガッサ星人(第6話):
    胸部の発光。
    ◆キュラソ星人(第7話):
    発光し左右に動く目玉。
    ◆メトロン星人(第8話):
    顔側面に施された
    過剰な電飾。
    ◆ベル星人(第18話):
    顔面全体の発光。
    ◆ギラドラス(第20話):
    角と牙、背中のトゲの
    赤い発光。
    ◆プロテ星人(第29話):
    目の周囲の装飾が発光・
    明滅。
    ◆ダリー(第31話):
    開閉する大アゴ。























ウルトラ 場外 ファイト

東宝の肉体・中島春雄の
ウルトラファイト!

  • 『ウルトラQ』
    ◆ゴメス(第1話)
    ◆パゴス(第18話)

  • 『ウルトラマン』
    ◆ネロンガ(第3話)
    ◆ガボラ(第9話)
    ◆ジラース(第10話)
    ◆キーラ(第38話)

  • 『ウルトラセブン』
    ◆ユートム(第17話)

























































































ウルトラ 場外 ファイト

 山田正弘は、ウルトラシリーズでは14本もの脚本を手がけている。ここでは山田脚本作品で子どもが登場しないものを挙げてみよう。

◆『ウルトラQ』
第5話
「ペギラが来た!」
◆『ウルトラマン』
第19話
「悪魔はふたたび」
(南川竜との共著)
◆『ウルトラマン』
第28話
「人間標本5・6」
◆『ウルトラセブン』
第4話
「マックス号応答せよ」
(金城哲夫との共著)
◆『ウルトラセブン』
第32話
「散歩する惑星」
(上原正三との共著)

 以上の5本である。
子どもが描かれたものが9本、
子どもが登場しないものが5本。
この数字が示すとおり、やはり
山田作品には子どもが必要不可欠と言えよう。




スケッチブックを
覘く»»»



  画像にマウスを載せると別の一面が見られます。   
  ↓ 画像をクリックするとおもちゃ箱に移動します。

江戸時代の怪物・ネロンガは、電気で現代に甦った




透明化は電気系怪獣の特性?


ネロンガの機電ギミックに刮目


発光、回転、仕事師・倉方茂雄のスパーク!


ネロンガの巨体の元は、東宝のバラゴンだ


繰り返される縫いぐるみの流用・改造






東宝体質・中島春雄の名ファイト!






























40年の時を超え、ネロンガ復活




是非とも見てみたかったネロンガの雄姿











白日下に晒される破壊スペクタクル

怪獣ファンにとって、待望の第3話

ウルトラバトル屈指の名バウト!















溌剌とした子どもたちの活躍は、山田作品の特長だ


   ↑ 画像にマウスを載せると、別の一面が見られます。   
    画像をクリックするとおもちゃ箱に移動します。


おもちゃ箱を
ひっくりかえす
      »»»









inserted by FC2 system