真ん丸魚眼と扇情的な口唇、半開きの口腔から漏れる空隙きの歯列。しどけなく頓狂な面相を囲繞する、彩り豊かなホルンの突き立て、ヴァンダイク・カラーの如き襞襟の包囲、葉状の前垂れと。古代インカ文明の仮面装飾か、はたまたバリ・ヒンドゥーの聖獣バロンか。いずれにせよ、このプリミティヴ!斯様な顔貌に付き倣う体躯はバイソン。後方へ過剰に張り出したハッチバック、だがしかし二足立脚という意想外性はミノタウロス、くだん。原始美術と野牛と、そして神話とがハイブリッド!以上のような美辞麗句は、そのままこの“究極”版ミクラスにも当該しよう。先ずは、その豪壮っぷりを篤と賞翫あれ。
「着ぐるみ感にまで拘った造型は、それこそスーツ随所の皺寄り・弛みまでをも再現!」なんて手味噌自慢、声高に謳い揚げた本シリーズ。第6弾にして漸うの幕引きと相成った。前弾、つまり第5弾で抽抜されたウインダムが、同じカプセル怪獣として先んじ、「じゃあミクラスは?アギラは?」と大旱の雲霓、隔靴掻痒した諸兄も必定少なからず。よってこの健気な弾丸ファイターの“究極大怪獣”への陣容参画、終幕におけるぎりぎりの滑り込みは、してみればまあ幸甚の到りであろうか。(アギラは未登板、可惜残念)
さて“アルティメット”を戴冠するミクラス。既述したように劇中イメージそのものが、そっくり当て嵌まるという見事な拵えである。バッファローを体現する特異な稜線、隆起と陥没が織り成すリッヂ・ライン。無双の膂力を発露する腕の骨太と、ポージングによって派生するスーツの緩と急、即ちシワ。武骨面における造作の的確さ、猛牛の如き露わな鼻孔、嚇怒調に盛り上がった眉宇、婀娜さえ放つ丸目玉と分厚なリップ、これぞまさにインカの仮面!取り巻くデコレーション、つまり角・鬣・前掛けが意気揚々と溌剌。短くも屈強な脚構えは万鈞な過重を支え、祭典・盛事で活況する上体を安定させる屋台骨として作用しよう。長大な2本のホルンも、このスケールであるからこそ、紆余・ぬたくりの勇躍が映えて活きるというもの。雄大な背面に刻印された碑文と、葉状の前垂れを走る葉脈が脈々。恰も樹幹に腐生した茸の如く、脚部外側面を覆う笠状の突起物、その不規則な羅列など。このように放胆と巧緻が織り成す調和を以ってして、忠義尽くす角獣の模像は漸う完遂を見るのである。
そして「野牛の模り」を息衝かせる仕上げ、つまり塗装彩色。成型色であるブラウンの上っ面に、サッと刷けたカーキが身体随所の突出部に引っ掛かり、独特なワイルド感を発現。更にその上に置かれたボルドーの点在が、アクセントとして効果的に発色、意外性の演出と共に全体像をグッと引き締めている。肉色一色による口腔内の深みの欠如や、また角にあっては乏しき色味など、少々の難も目に留まるが、概してこれらが“究極版ミクラス”の出来栄えをそう阻害するものでもなかろう。「最優良」の判押しとまではゆかぬが、色彩設計の蹉跌らしい蹉跌は何ら認められず、よって無難な為遂せ、「及第」といったところか。
ところで実際のスーツの背面には、務歯の噛み合いを掩蔽する為に、“蓋閉じ”が為されている。そういったファン心理を擽るような事象を汲んでの事であろう。この“アルモン”版ミクラスも、背面の“蓋”がパカッと外れるべく分割成型されているのだ。何となれば、愛すればこそ。斯様な隠れた配慮の発見にあって、又候この忠犬への愛着が一入増すというものであろう。
縷陳の最後、口の端に掛けて置きたいのは、この二足立脚バッファローをして、生命漲らせる躍動感だ。と言っても無論これはフィックス・フィギュアであって、身体髪膚のいずれも駆動するものではない。要は刹那における活写、瞬間を捉えたハンターの眼差し、即ち造型者の彫塑センスである。それは殊に腕部に発露。上段構えに掲揚した左腕と、脇を締め屈曲させることで中段構えとなった右腕。この斜の対比で生じたズレは、スーツ余剰分の偏りを左右で違えることとなる。つまり左腕内側面にあっては著しくダブつき、そして右腕外側面にあっては指先に牽引されるという緩急の差異。矯めつ眇めつすれば、成る程疎略な模刻として目に映じるやもしれぬ。粗雑な彫り目...。しかし寧ろこういった荒削りな彫琢による流線こそが、実はミクラスのオブスキュア性、つまり「らしさ」の顕現に大きく加担しているように思えてならない。斯くもよく模造された面差しや、忠実にシルエットを準えた稜線とか。ここに生動の綾が加わることで、漸うやっと「模り」は成就するものではなかろうか?このミクラスのように。
1997年に出たもののリペイント版。全体的に濃い目のブラウンに変更、角の彩色に緑色とピンク色が追加され、ぐっと良くなった。体表の汚し塗装も白から黒になり、深みが増し引き締まったこのミクラスは、造型・彩色ともにカプセルトイ・サイズではマストだ。
HGシリーズより断然小さいサイズにも関わらず、角に施されたこの彩色には驚嘆!造型も申し分なく、またこのムスッとした顔つきが何ともかわいらしい。
葉っぱ状の前掛けがご丁寧にも緑色に塗装されているのは、ブルマァク人形と同じだ。劇中では、前掛けは体色と同じ茶色である。造型自体にそんなに破綻はないものの、難はこの薄いブラウンによる彩色だ。リペイント前(600円時代)の方の濃いブラウンの方が、まだイメージとしては近かった。
カプセルトイからシフトして、箱詰め、ヘッダー付きビニール袋入りの体裁となった。ブルマァク珍色カラーリングのカラーバリエーション。体色のブラウンが薄くなって、ミクラスの重厚なイメージを損なっている。
造型とともに細かい彩色などは、ボトルキャップ・サイズのミクラスとしては満足の出来。出来ればもっと量感がほしかったところだ。前弾のウルトラマン編からは、格段の進歩を遂げたと言えよう。