水棲生物らしい滑沢な体表の質感は、ソフビ材質が正解である。各ヒレのイエローの縁取り彩色やウロコのモールドなど、随所に丁寧さが窺え、彩色・造型ともにソツのない出来だ。けば立つ毒トゲの表現も、まあそれなりに活きている。とにかくゲスラのこの愛嬌顔は、丸い目玉とそしてピンク色のクチビル無くしては始まらない。尻尾と脚は、もっと白くてもよかった。
『名鑑』の冠は外されるが、本パノラマファイトを以っていよいよシリーズの幕引き。“オーラス”を謳う本弾では、悪ノリが発露・横溢する。何となればこの『ゲスラVSピーター』をはじめ、『レッドキング(二代目)VSアボラス』、そして『ラゴンVSザラブ星人』の3タイトル。これらについては、着ぐるみ流用怪獣同士が相討つといった、それこそコアなファンでなければ受け入れ難い題材で構成されているのだから。その排他的姿勢には、いやはや舌を巻く。尤もこれが、“名鑑スピリット”であったか?カカオ豆を積載した貨物船を強襲するゲスラ。船長が飼っていたピーターが、火炎の熱で巨大化し、ゲスラの前に立ちはだかる!というストーリー仕立ては些か強引だが、それこそは“パノラマ”の旗幟。海面より半身を現出させたゲスラに、港湾側から跳び掛ろうとするピーター。この躍動感。両者を分かつ貨物船、吹き上がる焔の火烈と朦々たる煙の棚引き。この構図。昭和往時、児童書などを賑わせた架空対決の復古。これを享受出来る幸甚、シリーズに熱烈感謝!さてそれでは、ゲスラ。これより4年前に発売された名鑑版と比較すれば、サイズこそひと回り小さくなったものの、造型の精緻さ・彩色の緻密さはレヴェル・アップしたと言えるだろう。開いた口腔に米粒の如き歯列を施すといった果敢さから窺えるように、鰭や鱗、体毛状の毒棘などの構成要素に加えて、潮流さえ煥発させる皺の刻印など、これら微細で繊細な造り込みはまさに妙技の窮みである。また細かいディテール再現の上に、グリーンとイエローを巧みに絡ませた色使いなどは絶品。そこに息衝くのは、紛う事無き南国産の水棲生物だ。拘泥り抜いた造型と豊潤な色彩バランスによって、漸う海獣の異形は完遂を見る。悔やまれるのは、ウォーター・ライン仕様による下半身の欠如で、名鑑版と併わせてこの不遇を唯々嘆くものだ。
SDスタイルのフィギュアで、顔に重きを置いたデフォルメが特徴的だ。色合いや造型は、2001年にバンダイから発売されたSDMシリーズのものよりも良く、もはやSDの域を超越していると言えよう。殊に深みのあるグリーンは、水棲生物のものとして出色。更にこの小ささで、元の怪獣ピーターのテクスチャーまで施されているという芸の細やかさがトドメ。
上記のプレックスのシリーズに比べると、こちらは完全に2頭身を意識したデフォルメが為されたSDスタイルのフィギュアである。造型・彩色ともに精緻に仕上げられており、侮れないシリーズだ。ヒレの色味に乏しいが、目玉やクチビル、頭部の触角や尻尾の彩色の細かさは刮目に値する。また卓抜されたSDとしての切り口にも、俄然注目だ。