怪奇植物  スフラン ~ 『ウルトラマン』 第8話 「怪獣無法地帯」
                   『ウルトラマン』 第26話「怪獣殿下 前篇」

人外魔境へ分け入れば、
吸血の植物が出迎える

 烈々たる火山噴火とそれに伴う地震の多発は、急激な地殻変動と地磁気の狂いを生じさせ、太平洋上は多々良島の生態環境を目紛しく変質させてしまった。結果、太古に棲息した大怪獣たちの目醒めを誘発、剰え植物界の生態系にまでその余波を到らしめることとなる。すなわち、南海の島々に広域に分布すると思しき巨大な肉食性の吸血植物“スフラン”、これの繁茂に恰好な場所を提供する結果をもたらしたのであった。スフラン生育の初確認は、上記のような熾烈極まる火山活動の影響で、恰も原始世界に退行してしまったかのような多々良島の西部。夥しい樹木が鬱蒼と生い茂ったジャングル地帯。音信の途絶した測候所所員らの捜索救助に訪島した科特隊、アラシ・イデ・フジの3隊員ら一行に襲い掛かった。長い蔦状の葉は100mにも及ぶため、土壌からの自生地点、すなわち根との境界部は未確認であり、その長大さは測り知れない。普段は他の大樹の枝からこの長い葉を吊り下げ、下を獲物が通るや自らの意思で大蛇のように絡み付き、棘蔓の葉から血液や体液などを摂取する。その出現地点付近に、測候所の川田隊員の衣服が発見されていることから、彼がこの吸血植物による食害に遇ったと目して先ず間違いない。地面に咲く赤い花に惹かれ近付いたものを襲うが、それが獲物を誘うため自ら仕掛けた罠なのか、偶然咲いていた別植物なのかは、因果性を含めて不明である。火に弱く、アラシ隊員が放ったスパイダーショットの火焔放射で葉を焼かれた。が、この攻撃で損なったのは長大な全体のほんの末端に過ぎず、根を絶やされぬ限り生命活動を停止させることはない。

 スフランの二度目の目撃は、南海の島・ジョンスン島。阪神大学の中谷教授を主軸とした学術調査隊が万国博古代館出品物採集のために来島した折、ジャンル地帯における彼らの道行きを突如として阻んだ。この際もスフランは、一行に同行したアラシ隊員の火焔放射で撃退されている。そしてやはり焼かれたのは葉先だけで、決定的な致命傷には到っていない。スフランの植生とともに、ゴモラザウルスの如き古代生物が棲息し得る条件を具えたジョンスン島。その環境の特殊性は、無論多々良島の生態系との酷似性を示すものである。

 尚、ベル星人(『ウルトラセブン』第18話)が創り出した擬似空間にも、同種と思しき吸血植物の出現が確認されるが、その関係性は詳らかでない。

意匠と造型

 “植物怪獣”である前に、単に植物としての態が顕著なスフラン。アイデンティティは、その長大な“葉”だけにあると言って差し支え無かろう。設定でこそ100mを誇る全長だが、実際に姿を見せるのはほんの末端だ。したがって中に人が入る縫いぐるみ状のものは必要とされず、製作されたのはテグスなどの「吊り」によって動かす操演用のモデルである。

 劇中、フジ隊員らに襲い掛かるこの“操られ”植物は、その薄っぺらさとともにあからさまな虚仮威し感は否めない。何となればスフランの初出である第8話では、レッドキングチャンドラーピグモンマグラーと、4体もの「縫いぐるみ怪獣」が登場。(但し、チャンドラーピグモンマグラーについては改造流用) 完膚無きまでに「脇」であるスフランにあっては、既に底を尽きつつあったであろう軍資金が回って来よう筈もない。島の生態系の基盤を成す怪奇植物の、何とも安普請たる由縁だ。

 ところでスフランのプロップは、東宝映画『モスラ 』(1961年)で使用された吸血植物の造型物を流用したものという説がある。が、果たしてこれは正しいのだろうか?インファント島調査団の一員・小泉博演じる言語学者が、一行からはぐれ独り密林地帯に彷徨ったとき、くだんの植物に遭遇し襲われる。その見て呉れは蔓状であり、また絡み付いて彼を捕食しようとするあたり、なるほどスフランを髣髴とさせなくもない。

 だがこのインファント島の吸血植物は、スフランのように扁平した“葉”としてのニュアンスに乏しく、紐や帯の如きホース状の造作で構成されている。況やスフラン独特の葉脈なぞ、目視されよう筈もない。映像作品を観る限りでは、両者が同じプロップであるとはとても言い難いのである。また成田亨によるデザイン画の存在や、エキスプロで製作されたという記録も有るということから、やはり「流用ではない」とするのが妥当であろう。

 スフランの操演モデルはその後、『ウルトラセブン』第18話登場の“宇宙植物”に流用された。経年劣化による草臥れが際立ち、もはや“葉”としてのニュアンスは喪失しつつあるが、特徴的な葉脈は紛う事無きスフランのものだ。インファント島の吸血植物よろしく、紐や帯のように堕した成れの果てに、それこそ植物としての“立ち枯れ”を準え見ることも出来よう。


 シュルレアリスム画家であるマックス・エルンストの作品に、『生きる歓び』(1936年)なる絵画がある。動物のような植物、あるいは鉱物のような植物がドロドロに融け合い、混然一体となった森をエルンストは好んでよく描いた。画面の殆んどを埋め尽くす植物の繁茂・群生に、生命の活力を見ることが出来よう。しかし反面その“決河の勢い”は、生あるものの意地汚さにも直結する。緑色が蠢く不気味なまでの活況は、まさにスフランが跋扈する森の景観、そこに秘められた貪欲さだ。

 同じシュルレアリストの成田亨が、こういった作品に着想してスフランをイメージしたのかどうかは判らない。しかしそもそもが、「ハイブリッド」を一つの技法とする前衛美術だ。成田にとって“植物怪獣”なる素材が、「動物+植物」という融合の実践に好適であったことは言うまでもない。『ウルトラマン』のグリーンモンス(第5話)やケロニア(第31話)、また『ウルトラセブン』のワイアール星人(第2話)などは、まさにその焼結なのだ。スフランを含めたこれらが、エルンストの絵画に似ているのも極々自然な流れであって無理からぬこと。様々な試行錯誤や取捨選択の果てに、「そこ」へと到る道程こそが創作者たちの瀉血行為、すなわちカタルシスであるのだから。


 さてそれではスフランは、具体的にどのような植物をモチーフとしているのだろうか?語尾の“ラン”は、『ウルトラQ』のジュラン(第4話)同様にラン科の植物を想起させる。だが少なくとも映像作品で確認出来る限り、スフランにあってはジュランの如き花弁は見当たらない。またワカメなどの海藻を髣髴とさせる長大な葉は、“蔓”や“蔦”などに例えられるが、それらとはそもそもの構造が異なる。長いのは葉自身であって、葉を支える柄ではない。

 ここで“アガベ”という多肉植物にはたと行き当たる。俗に“竜舌蘭”(リュウゼツラン)と呼ばれ、観賞用として広く親しまれている植物だ。主にメキシコを中心に中南米などの熱帯域に自生し、中にはロゼット径が3mから4mにも達する巨大種もある。長く厚みのある多肉質の葉は先端が鋭く尖っており、また周囲にトゲ持っているなど、スフランとの相似点は多い。更に茎が太く短いために、地面から直に葉が生えているように見える風体などは、イラスト図画によるスフランそのものだ。(ちなみに和名に“竜舌蘭”とあるが、特にラン科に近い植物という訳ではない)

 しかし勿論、決定的な違いもある。アガベが扁平した一枚の葉であるのに対し、スフランのそれはまるでヒラメのえんがわ、若しくはディメトロドン(ペルム紀前期に棲息した単弓類のトカゲ)が有していたとされる神経棘を、一枚葉に衝き立てた「帆掛け」のような三叉構造であるという点。そしてスフランの葉の表面には、如何にも植物らしい網状脈が瞭然と刻印されているが、単子葉植物であるアガベは平行脈であるということ。端的に言えばこの2点が大きく異なる。尤も“植物怪獣”であるスフランには、それなりのグロテスクさやケレン味が意図的に附された訳だから、上記のような相違点を差し引いてしまえば、概して両者の酷似性を阻害するものでもなかろう。

 ともあれ。機会が有れば、多種多様多彩を極めるアガベのあれやこれやを目にして頂きたい。そしてそこに、“怪獣無法地帯の門番”とも言うべき緑色の卦体との遭遇が、諸兄らに有らんことを!

スフランが居るジャングル

 恐竜時代さながら、原始世界の様相を呈す多々良島。太平洋上のどの辺りに位置すると想定されたのだろうか?小笠原諸島や八重山列島、また沖ノ鳥島のように、熱帯ないし亜熱帯に近接した領海と見るのが先ず妥当であろう。何となればスフランが出現したあの木深い森林こそは、昼尚暗い熱帯雨林の鬱然さが躍如しているのだから。まさに人跡未踏の地、“人外境”の顕現である。そのオートモスフィアーは、瑞気さえ漂っているかのようだ。

 だが意外にも本ロケは、福島県は裏磐梯の山林で行われた。裏磐梯と言えば、有名な五色沼をはじめ大小300は超すと言われる湖沼群や、安達太良山と吾妻山を望む風光明媚な観光地として知られる。1888年の会津磐梯山噴火によって形成された高原大地など、多々良島のように火山活動を出自としてはいるものの、福島県北部に位置する気候は典型的な北日本型だ。冬には積雪寒冷地となり、植物の植生にとっても厳しい。四季のある東北地方の森林であるからこそ、一年中高温多湿の恩恵に与る熱帯雨林とは、自生している植物の種も、そしてそれらが織り成す景観も違ってこよう。

 しかし斯様に南国とはかけ離れた地における山林でのロケ撮影であるにも関わらず、左程の隔絶感を覚えないのは何故だろう?門外漢による浅見になるが、常緑高木や藤本、着生植物など、熱帯樹林と裏磐梯の恐らくは両森林に生育しているであろうものの、その種類や群生の有り様となってくると大きく異なる筈だ。「熱帯雨林」と称してその実日本の東北地方の山林を映し出せば、たとえば外国映画で描かれる日本の風景や日本人同様に、少なからず違和を禁じ得ないものであろう。なるほど確かに多々良島の密林地帯には、ところどころ熱帯のジャングルとしては似つかわしくない顔が見え隠れしている。だがそれもほんの僅かだ。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の映画『プレデター 』(1987年)の舞台となったジャングル(南米と設定)の、何と過剰に明るい緑色だったことか。それに比べたら、1966年当時の子ども向けテレビ番組であるということを鑑みても、何と見事な熱帯の密林であろうか!怪鳥囂しい音響効果に引っ張られるということもあろう。しかし裏磐梯の山林に“和製ジャングル”を出現させたのは、これ偏に往時の円谷プロの力量と懐深さ、特殊技術撮影スタッフひとりびとりが固持した執念と矜恃、その賜物である。

 そして和製ジャングルに蠢く緑色の異形は、まさに「春態紛として婀娜たり」。テグスで吊ったスフランを蠢動させるため、複数の人員が高木に登って操作したであろうことは想像に難くない。当時操演と機電を担当していた“仕事師”・倉方茂雄も、この「吊り」にあたったのだろうか。いずれにせよ足場が不安定で、スタジオのようには事が運ばぬロケ撮影だ。枝に跨っての操演は、難航を極めたであろう。労苦が偲ばれる。

 熱帯樹林に見せかけた裏磐梯における和製ジャングルと、そして大樹の間隙を縫うように蠕動する緑色の竜舌。“怪奇植物スフラン”はすなわち、それを取り巻く風光に融けこんでこそ息衝き、奇勝を完遂させるのである。



長い物に巻かれる!

 するするするする.........と伸びる“長物(ながもの)”。這い摺る、忍び寄る、纏わり付く、そして締め上げて殺す。この恐怖。大蛇や竜、ろくろ首や一反もめん、大名行列、クラーケンなど、洋の東西を問わず、古来より異様に“長い物”に対して人びとは、その神性を畏敬し或いは魔性を忌み嫌って来た。そして巨大な肉食性の植物が、長大な蔓や葉を以って人間を襲い喰らうといった描写などは、ひと頃昔に重用された欧米製ホラーにおける定石のひとつであったと言えるだろう。そう“怪奇植物”スフランは、脚本を手がけた金城哲夫(上原正三との共著)の洋物嗜好の顕われなのである。

 スフランの他にも、たとえば『ウルトラQ』のジュラン(第4話)や『ウルトラマン』のグリーンモンス(第5話)、更には『ウルトラセブン』のワイアール星人(第2話)と。これらは押し並べて、言うなれば“金城流Horror in Green”である。(『ウルトラマン』第5話「ミロガンダの秘密」の脚本は、金城が書いたプロットを元に藤川桂介が手がけた) このように植物系モンスターの物語を、それぞれのシリーズの第1クールに必ず持ってくるあたり、チーフ・ライターであった金城の思い入れが伝わって来るというもの。また特に植物系という訳ではないが、『ウルトラQ』のタランチュラ(第9話)や『ウルトラマン』のミイラ人間(第12話)なども、彼の洋物ホラー好みを達弁に語るものである。(『ウルトラマン』第12話「ミイラの叫び」も、金城プロット&藤川脚本) 更に植物系以外における金城発の長物は、『ウルトラQ』では大ダコのスダール(第23話)を、そして『ウルトラセブン』でエレキングの尻尾(第3話)やナース(第11話)といった“巻き付き”の白眉を生み出した。植物であるにせよないにせよ金城哲夫は、どうやら「長い物が人に巻き付く」というシチュエーションに拘泥ったようだ。

 この「長物が纏繞する」という、得も言われぬ畏れ。人びとは何ゆえ、斯くも無闇矢鱈と長物を畏れるのであろうか。マンガ家・山岸涼子が自身の作品『雨女』(1994年)の中で、“長物”についてこう述べている。「罪が暴かれようと暴かれなかろうと 彼は“長物”を引きずっている これが人間に憑く背後霊の中でも もっともたちの悪いものだそうな」と。因果応報、業の堆積・累ね。人は本能的に、人類が重畳して来た罪の深さを知っているのではなかろうか?己が背後に引き摺る何物かを。その「深さ」を「長さ」に変えて。ずるずるっと、するするっと...。

 人は“長物”に、自らの罪科を投影して見ているのかもしれない。“それ”に「巻かれてしまう」という畏れ、そして「喰われてしまう」恐怖。まさに「親の因果が子に報い」、祖先の因果が現代人にさえ報いているのだ。たとえば蛇など、人は長い物について「人を喰らう」イメージを付き纏わせる。それこそは「己の罪深さ故その罪業に飲み込まれる」という、悪因悪果の暗喩ではないだろうか?蛇がチロチロと見せる舌に人は戦慄を覚え、そもそも昔話などで人が大蛇や竜に喰われる際には、長い舌に巻き付かれるといった描写が恐怖の象徴として馴染み深かろう。またサメに喰われぬよう、自分をサメより大きく(長く)見せるために、越中フンドシを棚引かせて泳ぐと云う話を聞いたことがある。この逸話なんかからは、長物から逃れようとする踠きの必死さが伝わって来るというもの。決して免れ得ぬ因果であろうとも人は懸命に抗うのであり、この“ジタバタ”が人間を形成している淵源なのかもしれない。それとも或いはこれもやはり、“業”と呼ぶべきものなのだろうか?

 スフランの如き長き物に抱く畏れ。それは我々が人間である以上常に付き纏い、恩讐のようにいやらしくも絡み付く情感なのである。人外境に棲まう得体の知れぬ長物に、人びとは己の重畳罪科を見い出し、そしてその途方も無い深さ(長さ)に絶望し畏れ慄くのだ。眼差しは長物そのものへの視線を超越し、その背後に鎮座ます象徴を見つめているのである。

大東亜共栄圏、
失われた“怪獣郷”を求めて

 「先頃、アメリカ航空宇宙局の衛星写真に、南米大陸のジャングル奥深く、不思議な紋様が発見された。幻の黄金都市“エル・ドラード”ではないかと、世界中の人びとの注目を浴びた。“エル・ドラード”。それは、アンデスの天嶮とアマゾンのジャングルに阻まれ、大勢の研究家の何世紀にも渡る必死の捜索を斥けて来た、インカ、幻の都である」 _ NHK『太陽の子エステバン 』(1982月6月29日-1983年6月7日) オープニング・ナレーションより。


 悪魔の尿溜め。濃稠な蒸気立ち込める湿林。上空には、蚊蚋の大群と蚊柱が織り成す恐ろしいまでの大雲集。スフランが繁茂する多々良島ないしジョンスン島は、そのような熱帯的秘境として想定され描写される。生態系の礎を成す植物でさえも怪獣であるといった、前人未踏の封鎖的世界観。それは地理的にはどの辺りに位置するのかは曖昧模糊、漠として判然としない。だが確たる「南」としての活写を以って、見るものを「茫洋たる南海の何処か」と諒解せしむるのが印象的だ。斯くてスフランは、兎にも角にも我々が持っている観念世界における「南方」の住人として息衝くのである。

 無論これは、スフランに限ったことではない。本邦分野の祖であるゴジラ(『ゴジラ 』1954年)は南太平洋のビキニ諸島近海に出自を持ち、モスラ(『モスラ』1961年)はポリネシア近くのインファント島の聖なる生物であった。また米国産モンスターのキングコングも、『キングコング対ゴジラ 』(1962年)において南太平洋のファロ島出身と設定されている。その翌年(1963年)に公開された『海底軍艦 』で、怪龍マンダを擁していた“ムー帝国”も、やはり南太平洋の地底にあるという設定だ。更に『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 』(1966年)や『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣 』(1970年)などは、その題名が示すとおり南洋の孤島(それぞれレッチ島・セルジオ島)が舞台であったし、ゴジラの息子・ミニラ(『怪獣島の決戦 ゴジラの息子 』1967年)は、カマキラスやクモンガが跋扈するまさに“怪獣パラダイス”とも言うべき南太平洋はゾルゲル島で産声を上げた。他にも『キングコングの逆襲 』(1967年)に登場したキングコングは南海のモンド島出身、『怪獣総進撃 』(1968年)で“怪獣ランド”が設置されたのは小笠原諸島の島、そして『ゴジラ・ミニラ・ガバラ オール怪獣大進撃 』(1969年)で一郎少年が夢見たのは南洋にある怪獣島といった具合に、凡そ日本映画界における怪獣物は「南海劇」と言って良いくらいの南方偏重で活況する。

 そしてこれら東宝怪獣映画の後進となるウルトラシリーズも、ブラウン管を通して列島のお茶の間に幾多の「南」を当然の如く発信し続けて来た。上記多々良島やジョンスン島の他を掻い摘んでみれば、『ウルトラQ』で巨猿・ゴローが移送された先はかつて日本軍が占領したと思しき太平洋上はイーリアン島であったし(第2話)、大ダコ・スダールが巣食っていたのはコンパス島なるミクロネシア群島に位置する未開の島だ(第23話)。平成のシリーズに到っては、たとえば『ウルトラマンティガ』第1話に登場した超古代竜メルバなんかはイースター島からはるばる日本へやって来たし、近年のものでは『ウルトラマンメビウス』の第41話で宇宙からやって来た円盤生物ロベルガー二世が、メビウス&80らと何故か南海の無人島で激闘を繰り広げている。

 これらは「怪獣と言えば断然南」を象徴するものであって、どうやら怪獣の生理を配慮した結果ではないようだ。怪獣に付き纏う「南」。その枚挙には暇が無い程である。東宝怪獣映画を嚆矢とした「怪獣と南」という方便は、最早「映像的神話」化したと言えるだろう。


 勿論これらインファント島やファロ島、そしてイーリアン島やコンパス島など、その多くは多々良島やジョンスン島(ハワイ諸島近くの“ジョンストン島”とは別物)同様に架空の島であって、南太平洋の何処其処と詳しく位置特定されている訳ではない。“多々良”などという和名を持つものを除けば、何処ぞの国家に属するということも無く、縦しんば属したとしてもその国もまた空想上の国だ。(例:インファント島はロリシカ共和国領土) 重要なのは地理上の位置などではなく、それらの島々が「南」に在るということであり、ただ只管に「南国っぽく」描かれるということにある。言い換えれば、怪獣には「南」の風景が闇雲に似合うのだし、怪獣は「南」に棲んでこそ“しっくり”来るということだ。では何故、少なくとも我々日本人にはそう思えるのだろうか?

 それは明治維新以降に興った、前近代における“南洋ユートピア理想”とも言うべき幻想ないし夢想に端を発す。押川春浪や矢野龍溪を起源とし、大正から昭和戦前期に栄華を誇った秘境冒険小説の数々。小栗虫太郎の『人外魔境』シリーズに象徴的なように、それらの作品で描かれる「秘境」とはつまり、無国籍風南国イメージで彩られた南方曼陀羅を示している。少年読み物に横溢した異国趣味的な冒険綺譚、その舞台として重用された未開の「南」。それは、急激に推し進められた近代化に対して大衆が欲するところを形にしたもの、すなわち「失われつつある原初的風景への回帰」であったことを端無くも物語っている。これら物語として描かれた「南方」が、どことない切なさを発露しているのは、秘境の自然そのものが実は文明によって包囲されているという“喪失感”から来ることに他ならない。前近代より日本人にとって「南」とは、未開で野蛮なイメージであったと同時に、穢れ無き神聖さをも体現し得る空間であったのだ。

 そこへ持って来て怪獣である。竜を人間の祖型と見做す新興宗教的近代神話は、明治維新以降の宗教市場自由化に際して、古来より自然崇拝を伝えて来た神道系諸派によって創造されたものだ。その“竜”を、つまり“怪獣”を「聖なる野蛮」あるいは「大いなる自然」の象徴として「南」に据えること自体、何をか云わんやである。またインファント島などの原住民たちの怪獣に対する“崇め奉り”という接し方は、「南方」の其処此処で見られる原始宗教的光景だ。我々が“怪獣”なる存在から、ある種の郷愁にも似た情感を誘発されてしまうことについて考えたとき、斯様な神話世界や土俗的信仰との関わりを軽々に無視できまい。

 しかしそのような神話的夢想は、詰まるところ文明人特有の功利的価値観による産物だ。「我々が疾うの昔に忘却してしまった、純朴な人間本来の自然な生活への回帰」とはすなわち、文明人ならばこそ持って然るべきとされる高踏と傲慢が同居したようなロマンティシズムである。こういった幻想が、近代化に伴いやがて「領土的野心」に混濁・吸収され、国益を重んじた身勝手な政治的営為へと変容するのは自然な流れであったのかも知れない。「日本は、南洋と直接繋がった太平洋文化圏の一員である」という暗黙の諒解を土壌とした、そもそも有りもしない創造上の「失地回復」。架空の喪失感を駆使して正統性を主張する詐術に満ちた政治的美意識は、南方ロマンを充足させたことであろう。斯くて白人による南方植民地支配からの解放という大義名分の下、過激な自己正当化は、功名心と無自覚な欲望に耽溺する英雄的夢想を邁進するのである。急速な近代化に即した社会不安と上昇・拡張主義の欲望の中で、「南方」が単なるユートピアとしての観念対象から、回復されるべき日本の一部へと変貌を遂げた瞬間だ。環太平洋ユートピアに具体的な“かたち”を与えるべく、日本は大東亜共栄圏へと乗り出したのである。

 とは言え。古くから「南方」は日本人にとって、憧憬の眼差しを以って見据えられた理想郷であったことに変わりはない。本来はインドを指す「天竺」という地名が、日本では仏教的理想土を示すように、南洋の彼方には極楽があるという茫とした、だが確たる概念が日本人にはあった筈だ。無論それは血走った海外覇権の渇望などではなく、極めて牧歌的なものであっただろう。秘境冒険小説やインファント島などに登場する架空の原住民らが、恰も親日感情を持っているかのように恣意的に描かれるのも、その大本を辿れば、利権や損得的なものを抜きにしたユートピアへの渇仰、焦がれの情を源泉としているのだ。そう「日本」と「南方」は、互いに往還し合う場なのである。南洋生まれの怪獣たちは、日本に「戻って来る」のであり、そしてまた南へと「還ってゆく」のであろう。ゴジラが、モスラが、そしてスフランが息衝くのは必ずや「南方」であり、それと同胞でありたいと恋慕した「日本」でもあるのだ。










ウルトラ 場外 ファイト

 ウルトラセブン第18話「空間X脱出」。ベル星人を主軸に、宇宙蜘蛛グモンガや吸血ダニ、そして宇宙植物らが擬似空間の住人として脇を固める。このスフランに似た蔓状の葉を持つ宇宙植物。往時の怪獣図鑑などで“宇宙スフラン”などという刺激的且つ扇情的名称を目に留めたとき、少年らは心躍らせたものだ。それは『ガメラ対宇宙怪獣バイラス 』(1968年)において、銀色のギャオス、すなわち“宇宙ギャオス”を目にしたときの感慨にも似た...





ウルトラ 場外 ファイト

 現代芸術社・刊『ウルトラマン決定版!怪獣カード』(1966年9月発行)では、“怪獣画伯”・成田亨の筆によるスフランのカラーイラストを見ることが出来る。そのマイナーっぷりからすれば、しかも成田亨に描かれたということ自体、稀有で貴重であると言えよう。ジャングルの中で科特隊隊員が、まるで緑色のキャタピラのような異形に襲われる様を活写したその絵。スフランの葉の三叉構造が、詳らかに把握出来る資料としても珍重されて然るべきだ。また成田独特の筆走りと色遣い、そして何と言っても科特隊隊員を下方に配し、それをスフランや大木が取り囲む不安げな構図は圧巻で、シュルレアリスムの絵画作品としても白眉である。

 そして同社・刊『ウルトラマンカード 32匹の怪獣』(1966年12月発行)では、藤尾毅による「グリーンモンス対スフラン」のカラーイラストに刮目。寂寞とした山岳地帯で2種の怪奇植物が混然と絡み合う様は、恰も一体の植物怪獣が呈する卦体を見るようだ。こういった「似たもの同士」の対決に、昭和少年は心を揺り動かされたものである。

 ちなみに、同じ“怪奇植物”の異名を持つグリーンモンスともどもスフランは、昭和当時の怪獣図鑑などでは、イラストによる図画での掲載が圧倒的に多かった。これは写真のネガが、80年代後半まで行方不明だったことに起因すると思われる。

















ウルトラ 場外 ファイト

スフランに続け!
怪獣・怪人界における
心に残った名蔓草10選
◆ワイアール星人
 『ウルトラセブン』第2話
: 夜の住宅街に
 這い摺る緑の異形は、
 酔漢にも食指の蔓を
 伸ばす。
◆サタンローズ
 『ジャイアントロボ』第3・17話
:本邦随一の奇怪音を発す
 “蔓系”怪獣は、
 巨大なる鉄塊を
 締め上げた。
◆草人間オープン
 『スペクトルマン』第53話
: スペクトルマンに絡み付く
 数条の蔓は、
 実物を使用しての撮影。
◆レオゴン
 『帰ってきたウルトラマン』
 第34話
: 悲劇の合成生物が
 伸ばした蔓は
 マットジャイロを
 空中キャッチ、
 そして生みの親さえも...
◆サラセニアン
 『仮面ライダー』第4話
: 初期ショッカー怪人
 における
 “植物系”の白眉、
 蔓状の鞭が唸る!
◆マンダリン草
 『ウルトラマンタロウ』第27話
: 自動販売機に潜み、
 子どもたちを
 虚弱体質にするという
 荒唐無稽さ!
◆バラバンバラ
 『イナズマン』第11話
: イナズマンの母が放つ
 イバラの蔓は、
 愛のムチ?
◆ビオランテ
 『ゴジラVSビオランテ』
 (1989年)
:何しろあの“怪獣王”を
 手こずらせた、
 史上最強唯一無比の
 蔓草だ。
◆クイーンモネラ
 『ウルトラマンティガ&
 ウルトラマンダイナ
 光の星の戦士たち』
 (1998年)
:ティガ&ダイナの
 コンビによって、
 苦戦の末
 やっと倒された
 巨大なる蔓怪獣。
◆ソリチュラ
 『ウルトラマンメビウス』第40話
: 惑星全体を取り込んで
 同化せんとする、
 蔓と言うか
 枝と言うか
 触手と言うか...
















ウルトラ 場外 ファイト

 “怪奇植物”スフランの登場を以って、「怪獣無法地帯」における生態系は完遂する。金城哲夫脚本作品では、こういった脇役による魔境の「基礎固め」に余念が無い。たとえば『ウルトラセブン』第18話「空間X脱出」には、スフランの操演用モデルを再使用した宇宙植物や、毒ガスを吐きまくるグモンガ、また吸血ダニらが登場する。彼らのように“怪獣”とは言い難い、しかし危険極まりない生物の存在は、「ベル星人の擬似空間」なる人外境を、未知の冒険世界ならしめ効果的に現出してみせた。

 またこういった“脇役怪獣”と人間の戦いは、本戦すなわち「主役怪獣対ウルトラヒーロー」を盛り立てる前哨戦としても作用する。本エピソード「怪獣無法地帯」では地底怪獣マグラーと科特隊の戦いがそうであったし、同じ金城作品・『ウルトラマン』第25話「怪彗星ツイフォン」における冷凍怪獣ギガスも最期は科特隊がトドメを刺した。

 まるで昭和戦前期に隆盛した、少年読み物における秘境冒険小説の世界。その享受。胸躍らされるよな“金城流サービス”を我々は忘れてはならない。






ウルトラ 場外 ファイト

 “昭和”シリーズ(1975年まで)に見る「南洋」もしくは「南国」・「南の島」、つまりは「南方」、総じて「南」に“由縁在る”怪獣の偏重。出身と航路。また途中経由における「南方」も、南由縁怪獣たる系統と解釈。伊豆・小笠原諸島や南西諸島、南鳥島などの日本領海内における「南海」、またこの際、九州地方も含めましょう。


  • 『ウルトラQ』
    ◆ゴロー(第2話):
    伊豆淡島
    太平洋上イーリアン島
    ◆ペギラ(第5・14話):
    南極→東京→北極
    ◆ラルゲユウス(第12話):
    第3氷期以前の地球
    10世紀のインド西部
    現代の港市
    ◆モルフォ蝶(第22話):
    アマゾン
    →蓼科高原湿地帯
    ◆スダール(第23話):
    ミクロネシア群島コンパス島
    ◆ピーター(第26話):
    フィリピン海溝→日本
  • 『ウルトラマン』
    ◆ラゴン(第4話):
    日本海溝5000mの深海
    ポリネシア
    三浦半島葉山
    ◆グリーンモンス(第5話):
    オイリス島
    (おそらくは南洋の島と想定)
    →日本各所→丸の内
    ◆ゲスラ(第6話):
    ブラジル→横浜港
    ◆アントラー(第7話):
    宇宙(?)
    中近東砂漠はアララット山麓
    ◆レッドキング・チャンドラー・
     ピグモン・マグラー・スフラン
     (第8話):
    太平洋上多々良島
    ◆ペスター(第13話):
    中近東近海→東京湾
    →京浜工業地帯
    ◆グビラ(第24話):
    深海(伊豆・小笠原海溝か)
    →海洋センター
    →管制基地付近の陸地
    ◆ゴモラ(第26・27話):
    南太平洋上ジョンスン島
    →大阪
    ◆ケロニア(第31話):
    アマゾン奥地→日本
  • 『ウルトラセブン』
    ◆アイアンロックス(第21話):
    奄美諸島徳之島近海海底
    北九州洋上
    南鳥島北北西110km
    伊豆下田港
    ◆ブラコ星人(第22話):
    スイス・アルプス山脈
    アメリカ・ロッキー山麓
    アフリカの自然動物園
    伊豆入田浜
  • 『帰ってきたウルトラマン』
    ◆ダンガー(第9話):
    太平洋上の無人島(南大東島?)
    ◆シーモンス・シーゴラス
     (第13・14話):
    南太平洋上西イリアン諸島
    フィリピン沖
    →東京湾→上陸
    ◆テロチルス(第16・17話):
    富士火山帯にある太平洋上悪島
    →東京
    ◆バリケーン(第28話):
    ミクロネシア近海
    グアム洋上
    小笠原の南50kmの海上
    →紀伊半島→関東(東京)
    ◆プリズ魔(第35話):
    南極オルノス岬
    マゼラン岬
    南太平洋各所
    ライン諸島近海
    マーシャル諸島近海各所
    →日本→都内スタジアム
  • 『ウルトラマンA』
    ◆宇宙翼竜の卵(第2話):
    宇宙→太平洋上→東京
    ◆カイテイガガン(第34話):
    太平洋の深海→日本
  • 『ウルトラマンタロウ』
    ◆チグリスフラワー(第1話):
    宇宙(?)
    おそらくは南方の何処か
    →東京
    ◆オイルドリンカー(第1話):
    太平洋→東京湾
    ◆キングトータス・
     クイントータス
     (第4・5話):
    オロン島(南太平洋?)
    →東京
    ◆ジレンマ(第6話):
    エジプト→日本
    ◆タガール(第7話):
    大西洋→八丈島近海
    ◆ガンザ(第7話):
    八丈島近海→八丈島
    ◆ボルケラー(第12話):
    九州えびの高原・
    賽の河原の地底
    →地上
    ◆シェルター(第13話):
    宮崎県・青島の近海
    →上陸
  • 『ウルトラマンレオ』
    ◆マグマ星人・
     ブラックギラス・
     レッドギラス
     (第1・2話):
    東京の南250kmの洋上黒潮島
    東京の南150kmの洋上大津島
    →東京湾
    ◆サタンモア(第48話):
    ブラックスター
    九州空域→東京上空



























スケッチブックを
覘く»»»










  画像にマウスを載せると別の一面が見られます。   
  ↓ 画像をクリックするとおもちゃ箱に移動します。

SDM スフラン ゴジ全台座各種 /RO SDM スフラン2体 アルモン レッドキング・ゴモラ ゴジ全台座各種

“怪獣王”が棲む島に根付け!怪奇植物





SDM スフラン 特ヒー モスラ成虫・モスラ幼虫 /RO無し

スフランはインファント島出身?






SDM スフラン・グリーンモンス 特ヒー ケロニア /RO無し

蔓延る!緑色の命根性


































名鑑 ジュラン・グリーンモンス・ワイアール /RO無し

舶来流儀で魅せる金城のグリーン・ホラー







SDM スフラン HG エレキング&セブン・ナース&セブン /RO フルタ漫コレ ヘビ少女

巻かれるぅ~、喰われるぅ~











全集 初ゴジ・モスラ幼虫 イワクラ マンダ/RO HG モスラ成虫 イワクラ エビラ・ゲゾラ・ガニメ・カマキラス3体・クモンガ・ミニラ・ガバラ

集え、怪獣!環太平洋ユートピアに

















おもちゃ箱を
ひっくりかえす
      »»»













SDM スフラン ゴジ全台座各種 /RO無し

さあ、懐かしい「南」へ還ろう


inserted by FC2 system