モロボシ・ダンが何らかの事情でウルトラセブンに変身できない緊急時、彼に代わって侵略者や怪獣などと戦う宇宙怪獣。フクロウに似た顔を持つ。M78星雲の“メタル星”出身。その星の名が示すとおり、生物であるにも関わらずメカニカルな外貌を持ち、脳髄部は電子頭脳で組成されている。しかしその割りには知略に欠け、専ら原始的戦術を展開した。頭頂の明滅ランプからビーム光線を発射。だがこの最大の攻撃部位は、脳髄に密接しているため、逆に最大の弱点ともなる。普段はダンが携行するカプセルの中にミクロ化収納されていて、「ウインダム、頼むぞ!」や「ウインダム、行け!」などの号令に合わせた投擲で、本来の巨大なスケールに現出。地球での活躍は3体のカプセル怪獣、すなわちウインダム・ミクラス・アギラの中で、最も多い3回を誇る。また『ウルトラセブン』の劇中において、絶命を匂わす最期を遂げたことでも特異だ。
ウインダムはメカニカルな外装を身に纏うが、メタル星に棲息するれっきとした“怪獣”である。生物と機械の中間生命体という、地球上の常識からすれば何とも不思議な生き物だ。
「侵略宇宙人もの」を掲げる『ウルトラセブン』では、このウインダムのようにロボットのような生命体ないしロボットそのものの登場が顕著である。これは前作『ウルトラマン』では、全くと言っていいほど見られなかったSF的光景だ。SFアンソロジー形式のドラマを標榜した『ウルトラQ』でさえ、ロボット生命体と呼べるのはガラモン(第13・16話)を挙げるばかりであり、そのガラモンも外貌からはメカニカルな意匠は一切見られない。
つまりメカニカルな容貌を呈す本格的なロボット怪獣の登場は、『ウルトラセブン』に始まったと言えよう。そして第1話から登場するウインダムこそその嚆矢であり、奇態な容貌を晒す宇宙生物クール星人とともに、『ウルトラセブン』の色濃いSF性を象徴するものなのだ。
ウインダムのような生物と機械の中間生命体としては、第11話登場のナースが挙げられる。円盤形態に変形するナースが果たして生命体なのか機械なのかは判然としないが、おそらくはウインダムと同じような設定を出自に持つと考えていいだろう。そしてロボットそのものとしてはキングジョーやユートム、クレージーゴンなどがすぐさま思い浮かぶ。ゴールドとシルバー。まさに『ウルトラセブン』を彩る「色」なのだ。
フクロウに着想したその顔は、まるでカラス天狗のロボット版だ。頭頂の鶏冠と全身を覆うメカニカルなテクスチャー、そしてそれらが織り成す全体的なフォルムは、ローマ兵士の甲冑を髣髴とさせる。この「ロボット鳥人」とでも言うべきウインダムは、『ウルトラセブン』における「宇宙生物創造」の自由発想を、まさに体現する宇宙怪獣なのだ。
デザインを手がけたのは、当時シュルレアリストとして円熟期にあった成田亨である。「鳥人」の見事なメカニカル風アレンジは、有機体+無機物による「ハイブリット効果」の実践で、シュルレアリストである成田の本領の発露だ。
この試みは、『ウルトラQ』や『ウルトラマン』で既に実験済みである。カネゴンおける「巻貝+チャック及びメーター」、バルタン星人における「ヒト+セミ+ハサミ」、グビラにおける「熱帯魚+ドリル」、ドラコにおける「バッタの羽+鎌」などがその実例として挙げられよう。しかしこれらはあくまでも「結合」であって、例えばバルタン星人なら「手首から先がハサミという無機物」、グビラなら「鼻先だけがドリルという無機物」というように、有機体部分と無機物部分の境界が際立って見て取れる構造になっている。
ところがこのウインダムは、有機体と無機物が渾然一体となった、まさに「融合」を遂げているのだ。東宝怪獣のメカゴジラ(1974年)のような、単純な面取りによるメカニック化ではない。前衛美術家・成田亨の先鋭的なデザインの意匠は、「フクロウのロボット化」という狭い想像性を凌駕する、生物として有り得べき姿さえ顕現させているのである。まさに「融合」と言うほかはない。この「融合」への試みはこの後、第11話登場の宇宙竜ナースを生み出す。
「結合」から「融合」への飛翔。それは、地球の重力圏内に棲まう生物の常識から解き放たれた「宇宙生物」という、未知の領域への嚆矢である。『ウルトラセブン』が切り開いた新天地に、開墾者として足を踏み入れた成田の、鍬の振り下ろしなのだ。
ところでウインダムのように、フクロウに着想したウルトラ怪獣は稀少である。『帰ってきたウルトラマン』に登場したベムスター(第18話)を挙げるばかりだ。フクロウ怪獣として稀有な存在のウインダムとベムスター。作品は異なれど、双方“ウルトラセブン絡み”であるのが面白い。そのほか本邦分野作品に幅を拡げてみれば、『仮面ライダー』のフクロウ男(第60話)や『変身忍者 嵐』の死人ふくろう(第6話)など、等身大ヒーロー物の石ノ森作品などに幾つかその例を見い出すことが出来よう。だが殊巨大ヒーロー物ないし怪獣物に限って言えば、フクロウ怪獣は殆んど類を見ないのである。何故か?
それは、フクロウ或いはミミズクが纏っている「夜の鳥」のイメージに起因しよう。フクロウは夜行性である。同じ猛禽類でも、精悍なイメージを持つ鷹や鷲などに比べれば、「不気味さ」に直結し易い。よって怪奇ムードで見せる怪人ものには、うってつけのモチーフなのかもしれない。壮大なスケールで見せる怪獣ものには、やはり鷹や鷲などの「カッコいい」猛禽類の方が相応しいのである。(例:ヒドラ『ウルトラマン』第20話)
以上のような意味からすれば、成田がウインダムのデザインにあたり、フクロウを持ち出したことはある意味果敢なチャレンジであったと言えよう。またその意匠を顔だけに留め、羽根を持たない「鳥人」を顕現させた怪手腕には脱帽する。フクロウ、ローマ兵士の甲冑、メタルボディ。これら三要素が奇跡的に融け合ったウインダムに、成田の新シリーズに向けた熱情の迸りを見るようだ。
さて成田が創造した新たな生命体を、実際に造形したのは高山良策である。ウインダムの首や手足を覆う、夥しい孔、孔、孔...。その過剰な装飾こそはデザインを手がけた成田亨独特のタッチであり、その意匠に基づき更に咀嚼してより深い理解のもと、実際に立体化してのける高山の手腕によって、初めて怪獣たちは息づくのである。
ペギラのオーストリッチ・バッグのような体表、レッドキングのブロック状の連なり、ブルトンの孔構造を有する突起の数々、メフィラス星人の脚を覆う四角錐のテクスチャー、ザラガスの背面を埋め尽くす夥しい円筒、ゼットンの背面の白いポチポチ、メトロン星人のフジツボ状のものに覆われた後頭部...と、成田怪獣の過剰な装飾の例を挙げればきりが無い。生物は時として生理的に訴える外貌をさらす。この生理的に訴える要素こそ、怪獣を「有り得べき生物」たらしめるものとして不可欠であり、成田・高山によるコラボレーションはそれを実現してみせたのだ。
シュルレアリスムの基本原理のひとつである“オートマティスム”によって、「心のあるがままに」意識の前面に想像力が横溢する。そこでは「有り得ない」生物の姿が、「有り得る」生命体へと変換されるのだ。ウインダムという「金属的な外装を纏った猛禽類」が、実際に具現化される瞬間である。
『ウルトラセブン』では3回登場するウインダム。各話のウインダムを演じた着ぐるみ役者は、以下のとおりである。
第1話のウインダムを演じたのは、春原貞雄である。春原はほかに、ワイアール星人(第2話)やテペト(第41話)を演じた。クール星人の小型円盤を追いかけるウインダム、痺れながら怪奇さを醸し出すワイアール星人、ウルトラセブンに許しを乞うテペトと、マンガ的でわかり易い動きが春原怪獣の特徴だ。
第24話において、ウルトラセブンとの大立ち回りを演じたウインダムは、鈴木邦夫である。鈴木は『ウルトラマン』第21話「噴煙突破せよ」登場のケムラーを皮切りに、数多くのウルトラ怪獣を演じた。その数は『ウルトラマン』では10体、『ウルトラセブン』では13体で、併せると23体にもなる。これは『ウルトラマン』怪獣の顔役であった荒垣輝雄の20体(内訳:『ウルトラマン』16体、『ウルトラセブン』4体)を抑え、堂々の1位だ。
第39話のウインダムを演じたのは、誰なのだろうか?クレジットでは西京利彦とあるが、それはアロンを演じたものなのかそれともウインダムを演じたものなのか判然としない。アロンとウインダムは同場面に登場しないので、もちろん西京が両方演じたとも考えられる。また鈴木邦夫が演じたという説もあるのだが、果たしてどうなのであろうか?
さてウインダムのシリーズを飛び越えての活躍だが、ウルトラセブンの従者であることとまた「カプセル怪獣」という人類の味方という立場も手伝って、幾つか挙げられる。1999年のビデオ作品である『ウルトラセブン』シリーズには、セブンの下僕としてミクラスとともに当然のように登場した。また2006年の『ウルトラマンメビウス』にも“マケット怪獣”なるものとして、やはりミクラスともども出演している。
ここで偲ばれるのは、アギラの不遇だ。第1話と第3話で鮮烈なデビューを飾ったウインダムとミクラスは、『ウルトラセブン』を代表する怪獣として有名な部類に入る。一方アギラは、対リッガー戦(第32話)や対ニセ・ウルトラセブン戦(第46話)と印象的な戦歴を残しているのだが、ウインダムとミクラスほどメジャーではない。ひとえに「早い者勝ち」と言うことであろうか。いずれにせよデビューの遅かったアギラよりは、早々デビューを果たしたウインダムとミクラスに俄然人気が集中するようだ。
ロボットのような外観を持つウインダムだが、勇ましく雄叫びを上げて敵に挑んだり、悔しさに拳を地に打ちつけたり、生物感以上に人間らしさが際立つ。「ドタン、ドタン」という重厚な金属感溢れる足音(ちなみにウインダムの足はエレキングのものを修理して流用している)や、電子頭脳を有する脳髄部はロボットそのものであるのだが、それでもやはりウインダムは「怪獣」なのだ。
『ウルトラセブン』でのウインダムの活躍は、第1話の初陣を始め都合3回で、これは他のカプセル怪獣ミクラス・アギラの2回登場に比べて1回多い。最多だ。以下にウインダムの戦歴を、各話ごとに敷衍してみる。
実は『ウルトラセブン』におけるウインダムの活躍は、もう一回用意されていた。幻に終わってしまった「宇宙人15+怪獣35」(脚本:川崎高と上原正三の共著)という作品においてだ。
タイトルどおり、総勢50体もの宇宙人・怪獣による襲撃に見舞われる地球。セブンは冒頭の7対1の対決で、力尽きて倒れてしまう。お互いを戦わせることでその数を減らし、生き残った五大怪獣(レッドキング・ペギラ・ジェロニモン・ネロンガ・エレキング)を倒すべく再び立ち上がるセブンを、ウインダムはアギラとともに助けるのである。奮戦空しく敗れるのだが、最後は大怪獣ゴードに救われるという内容だ。もし実現していたら、ウインダムは果たしてどんな勇姿を見せたであろうか。このNG作品への興味とともに、想像を掻き立てられるのである。
また結果的にはNGとなってしまった本作が、その後全く怪獣が登場しない「第四惑星の悪夢」(第43話)に取って代わられたことが実に興味深い。そこには何かしら、上原の恣意的なものが働いたのではなかろうか?
第24話「北へ還れ!」で、不本意とは言え、主人であるダン(ウルトラセブン)に刃向かったウインダム。悪者がヒーローの味方を操って、此れを逆に利用するシチュエーションなどは、反復慣用を回避する為にしばしば重宝して採られるドラマツルギーである。
しかしその実、少なくとも『ウルトラセブン』の場合、こういった“変化球”は、対カナン星人戦におけるウインダムの例を挙げるばかりだ。正義の子飼い・カプセル怪獣の、飼い主への服従は、殊更徹底して描かれているのである。なればウインダムこそは、旦那さまに楯突いた唯一例として、その稀少性が珍重されよう。
このような罪過を髣髴とさせるウインダムの再犯が、平成も20年を過ぎた2009年に発露した。それは2月24日。お笑いコンビ・ダウンタウンをはじめ、人気芸人らが出演するTBS系列のバラエティ番組・『リンカーン』、その一コーナー・「DJ 山口のバック・トゥ・ザ19XX」内においてである。
このコーナー。元々は「ドライビング・リンカーン」という名目で、一台の車に乗り合わせた浜田雅功(ダウンタウン)・大竹一樹(さまぁ~ず)・ウド鈴木(キャイ~ン)・蛍原徹(雨上がり決死隊)ら4人のお笑い芸人を、“ぐっさん”こと山口智充(元・DonDokoDon)が、お得意の物真似芸などで愉悦してこます趣向だ。その際山口は車に乗ってはおらず、別ブースにて実況するディスクジョッキーとなり、一同の車に備え付けのラジオに向けて音声を発信する体裁になっている。当企画の第3弾(2008年6月24日放映)が、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に肖ったもので、浜田ら4人が車に搭載されたマシンの年代設定によって、行く先々で懐かしの人たちに遭遇してゆくというもの。これの好評を受けて、「ドライビング・リンカーン」の第4弾企画も「バック・トゥ・ザ19XX」の第2弾として催されることと相成り、我らが愛すべきウインダムはラスト、1967年の懐かしい人として登場する。そう、ダン(森次浩嗣)と共に。
と、その前に。第3弾、つまり「バック・トゥ・ザ19XX」の第1弾について、ちょこっと触れておかねばなるまい。何故ならこのときの「取り」を飾ったのも1967年、『ウルトラセブン』のモロボシ・ダンとエレキングだったのだから。オープンカーに乗車し、隣り合って着席した格好の両者。だが大きな身体(着ぐるみ)で幅を取るエレキングのせいで、車内は窮屈を極めた状態に。そこで往年のブラウン管スターたちが、罵り合い小突き合う始末。この珍妙なる光景に、恐らくは少年時代、ウルトラセブンやエレキングに胸ときめかせたであろう世代の浜田らは抱腹絶倒。中村あゆみやタイガーマスク(佐山聡)など、並み居る強豪を押し退けて、ダンとエレキングはその大物振りを見せ付けた。
これを受けての第2弾。大ヒット曲・『CHA CHA CHA 』を歌う石井明美(1986年)、コメットさんの扮装をした大場久美子(1978年)、老齢の覆面レスラー・デストロイヤー(1963年)、沙悟浄の格好をした岸部シロー(『西遊記』1979年)と。強烈な時代の体現者たちが陸続と登場し、浜田らを哄笑の渦に貶めてゆく中、既に恒例化した感のあるラストは、またしても1967年への途行き。浜田らの車に横付けしたオープンカー。そこに鎮座ますのは、モロボシ・ダンと、そしてメタリック・ボディも雄々しいウインダム!
「俺の言ったとおりに動けよ!」と、恐らくは直前、敵との戦いで不味さを露呈してしまったウインダムを叱責するダン。どうやら戦闘後の反省会?これに対しウインダムは咆哮を以って反駁、面従腹背の生来気質から遂に腹背面が発現したのか、主人・ダンを小突きまくる。ハンドルを握るダンも、ウインダムの万鈞な掌による打擲を怖れ、首を竦めながらこれに応戦。結句エレキングのときの再現、斯くて狭隘な車中で、面罵と肘鉄砲の応酬が繰り広げられるのであった。
ここで浜田らを呵呵大笑地獄へと叩き込んだのは、往時のヒーローであった筈のモロボシ・ダン、即ち森次浩嗣が、年老いた姿態を晒してまで斯様な道化寸劇に打ち興じたという哀切だ。だがそのダンと丁々発止を演じるウインダムが、実はカプセル怪獣で本来ならダン(ウルトラセブン)の下僕であると、一同が記憶の深淵を穿くり返された刹那、可笑し味に拍車が掛かるのである。せや、ウインダムはカプセル怪獣や!そのウインダムが何でぇ?そして両人が立ち去った後、「カプセルから出して移動せんでもええのに...」と至極最もな事にはたと気付いて、また嗤誚するのである。
以上のように、従卒として仕えるべきマスターに対しての不恭順は、これはもうウインダムの十八番。いや、ウインダムこそが不服従の旗幟・象徴、叛く姿がよく似合ってしまうのである。なればその淵源に、カナン星人によって良いように躍らされた、あの日の苦い過去が在るように思えてならないのだが...。
尚、メタリックボディではないのだが、この他に恐竜戦車(第28話)とリッガー(第32話)をメカニズム怪獣として挙げとかなければ、それは手落ちというものだろう。
大きな眼窩と面長の顔、そして頭頂部の鶏冠。実はこの特徴を兼ね備えた顔を、『仮面ライダー』の怪人に見い出すことが出来る。第16・17話登場のピラザウルスだ。こちらはトカゲに着想しているだけに、フクロウ顔のウインダムとの酷似は、まさに奇蹟的であると言えよう。
そのシナリオに書き連ねられた
宇宙人と怪獣を列挙してみよう。
さて、お分かりになると思うが、タイトルが示す宇宙人15と怪獣35に満たないのである。 宇宙人7と怪獣20だ。人類味方組を加算しても、怪獣24にしかならない。おそらくは撮影可能な着ぐるみの状態などの関係で、シナリオでは 書き切れなかったものと推察される。残りの宇宙人8と怪獣15ないし11には、一体何が選抜されたであろうか?雑誌『フィギュア王』のNo.118(2007年11月発行) に特別掲載された一峰大二のマンガには、チブル星人やザンパ星人、ガブラ、ペテロ、恐竜戦車、バド星人、パンドンなどの姿も見受けられるが、充分有り得た話であろう。 いずれにせよ興味は尽きず、「幻」という存在は絶対なのである。