反重力宇宙人  ゴドラ星人 ~ 『ウルトラセブン』 第4話 「マックス号応答せよ」

周到な陽動作戦、
知略めぐらす侵略計画の果てに

 地球防衛軍極東基地爆破を企む侵略宇宙人。反重力能力を使って、太平洋上で日本の原子力タンカー2隻と海上保安庁の調査船1隻を消失させる。更に調査に赴いた地球防衛軍が誇る新造原子力船・“マックス号”を、タケナカ参謀・アマギ・ソガ両隊員もろとも成層圏まで浮上させ宇宙へ運び、3人を人質に獲った。ほかの乗組員については「抵抗したので宇宙へ放り投げた」と、自らの残忍性を嘯く。船舶消失事件を頻発させたのは、実は全て彼らの周到な地球侵略のための陽動作戦だ。船舶消失現場の海域に捜索の目を集中させ、その隙に別働隊が変身能力を駆使し防衛軍基地に潜入、基地の地下18階の第二動力室にある原子炉を爆破してしまおうというのが、彼らの本来の目的である。そのために、ウルトラホーク2号で宇宙へマックス号捜索に赴いたフルハシ隊員を捕らえて彼になりすまし、無事帰還を装ってまんまと基地潜入を果たした。計画に邪魔なウルトラセブンも、予め美女に化けた個体がダンを油断させ、ウルトラアイを奪って変身出来なくさせるという念の入れようだ。だが「策士策に溺れる」が如く、フルハシ隊員に変身した個体のいき過ぎた饒舌振りがケチのつき始めで、そこから彼らの周到な侵略計画は解れを見せるのだった。フルハシの姿でまんまと原子炉に時限爆弾を仕掛け、その様子に疑念を抱いたダンを一度はカプセルに封じ込める。しかし美女の姿で基地に潜入した別個体が、ダンとの格闘の末にウルトラアイを奪回されてしまい、変身したセブンによってその場で倒された。更に宇宙空間のマックス号より命がけの帰還を果たしたアマギの報告によって爆破計画が発覚、原子炉爆破を間一髪で阻止されてしまう。そして爆弾を仕掛けた個体は今度はダンに化けアンヌを人質に獲ろうとするが、セブンのアイスラッガーを額に受けて奪ったポインターで逃亡、基地の外で巨大化する。だが後を追って来たセブンのエメリウム光線によってその個体も倒され、マックス号を占拠していた宇宙待機組も、人質救出に駆けつけたセブンによって次々と倒された。尚、残った数人のゴドラ星人も、セブンが船内に持ち込んだ彼らの時限爆弾によって、マックス号もろとも宇宙の塵となる。ハサミ状の手は“ゴドラ・ガン”と称され、リング光線を発したり、また特殊な霧の噴霧によって相手をカプセル(ゴドラ・カプセル)に閉じ込めたりした。変身能力や飛行能力、そして反重力能力を有し知略に長けるが、戦いになると俄然弱くウルトラ警備隊携行のウルトラ・ガンであっさり退治される。また巨大化した個体も、セブンに敵わないと見るや逃げの一手に出た。強がりは言ってもやはりそこは知能犯、戦闘能力には劣るのである。







意匠と造型

 まるで身体の外側に骨格を纏ったような、ゴドラ星人の外貌。デザインを手がけたのは成田亨で、実際に着ぐるみ造型を手がけたのは高山良策だ。成田・高山の“ゴールデン・コンビ”の手による侵略宇宙人、その先鋭的な姿である。

 デザインの元となる生物のモチーフを特に有さない「抽象的」宇宙生物の試みは、既に『ウルトラQ』に登場するケムール人(第19話)や『ウルトラマン』におけるザラブ星人(第18話)、メフィラス星人(第33話)、そしてゼットン(第39話)などに見られた。だが前衛美術家・成田亨によるシュルレアリスムの実験成果は、『ウルトラセブン』初期に極まったと言って差し支えなかろう。

 それでもまだクール星人(第1話)やワイアール星人(第2話)、そしてピット星人(第3話)などは、それぞれシラミ・植物・トンボという具合に、元となった生物のモチーフ性が顕著だ。この点については「抽象性」一辺倒であるとは言い難く、むしろ「具象と抽象」の狭間にある姿と言った方が妥当である。

 これらを経て第4話に登場するゴドラ星人こそが、湾曲した面長の頭部や両手のハサミが「エビ」のそれを連想させなくもないが、既存の如何なる生物にも当て嵌まらない容貌を持つ「抽象的」宇宙生物と言えるのだ。ゼットン以来の「完全抽象性」への挑戦は、このゴドラ星人へと受け継がれ、更にはペガッサ星人(第6話)やメトロン星人(第8話)などの“傑作”宇宙人へと繋がってゆく。このように宇宙生物の姿において「具象」や「抽象」が拮抗し、そしてそれらが見事に焼結する初期『ウルトラセブン』こそ、成田がたどり着いたウルトラ怪獣の新境地なのだ。


 ゴドラ星人の姿がしかし「抽象的」であるとは言え、そこに満ち溢れる「生物感」に慄然とさせられよう。如何に「抽象的」であろうとも、「怪獣はどこかに生きている形でなければならない」とした成田亨の、“ウルトラ怪獣魂”とも言うべき製作姿勢が息づいているのだ。

 面長で前傾に湾曲した頭部と四肢の表面には、骨格構造のようなパターンが覆っている。この「体表面骨格」なる要素は、『ウルトラマン』の傑作怪獣・シーボーズ(第35話)で既に見られた。だがシーボーズの場合は、「恐竜の骨格」というのが狙いだ。“亡霊怪獣”という意趣は面白いが、生物としてのリアリティには欠ける。また『帰ってきたウルトラマン』に登場したステゴン(第10話)も、“化石怪獣”の名が示すとおり恐竜の骨格を意図とした。

 対してゴドラ星人の体表面骨格は実用的だ。高度な知能を持つ星人の表面を保護するかのように、極めて自然な形で沿っている。この例として挙げられるのは、『ウルトラマンメビウス』(2006-2007年)に登場したデスレム(第43話~)だ。骨と肉が引っくり返ったような外貌は、極めて不気味で印象深い。ともあれ、ゴドラ星人の体表面骨格に触れてみよう。頭部側面を走る骨格の「銀」とその間を縫う孔の「黒」は、コントラストとハーモニーを織り成し、まるで息遣いや鼓動が聞こえて来るようだ。これに比して四肢を覆う表面骨格は幾何学的なパターンで構成され、計画的に構築された建築物のようである。同一体に施された異なる骨格構造という趣向が面白い。且つまたボディ部には一切この表面骨格構造が見られず、それが宇宙生物としての不可思議さを増す要素となっている。

 シーボーズからゴドラ星人へ。単なる骨格構造から生物としての息遣いを持つ体表面骨格への進化に、成田の飽くなき挑戦が窺えよう。

 体表面骨格と並んでゴドラ星人を特徴づけているのは、ハサミ状の両手だ。これの前例が、『ウルトラマン』のバルタン星人(第2話)であることは言うまでもない。

 かつて成田はバルタン星人のデザインにあたって、「高度な文明を築いた知的生命体がこのように巨大なハサミである訳がない」と、ハサミを推す飯島敏弘監督と意見を戦わせたそうだ。その後のバルタン星人の人気振りを鑑みれば、もちろん飯島監督の意向は結果的に良かったのかも知れない。だがバルタン星人のハサミは、どう見ても「道具」的だ。生物として不自然で、また不便であることを思わせる。シュルレアリスムの表現手段であるハイブリットも、「手首から先が金属質のハサミ」という極めて図式的な構造が顕著であり、効果的には不完全だ。

 これに比べてゴドラ星人はどうか?バルタン星人同様に一見して無機質に見えるそのハサミだが、穿たれた小さい孔々と鉱物を思わせる質感は、明らかに「生物感」を意図としている。また形状はカニのハサミ(ツメ)と同じだが、発達した頭脳とは裏腹に退化した手先の「なれの果て」が、この2本のカニツメと見えなくもない。そして硬質な骨格構造を体表に纏っているために、その融合による「ハイブリット効果」が、極めて有機的なバルタン星人よりも勝っていると言えよう。

 成田はバルタン星人のハサミについて「不本意」と語っているが、これを「本意」に転換させたゴドラ星人のハサミに、成田の枯渇することのない挑戦の源泉が見て取れる。過去の不本意について意固地にならず、それを柔軟に受け止めて「宇宙生物の自由な手の形」を体現したのが、すなわちゴドラ星人でありクール星人(第1話)でありメトロン星人(第8話)なのだ。またビラ星人(第5話)やチブル星人(第10話)などは、そもそも「手」という概念すら放棄している。こういった発想に到達し得たことは、「不本意」ながら取り付けざるを得なかったバルタン星人のハサミに、端を発していると言ったら穿ち過ぎだろうか?

 体表の骨格構造やハサミ状の手のほかに、いくつかゴドラ星人を「生物」ならしめている要素を挙げてみよう。たとえば硬質なイメージの頭部も、ひとたび後頭部へ回るとイモ虫さながらのうねりが連なっており、硬軟のギャップを顕現させている。ベストを着たような胸部の唐突な赤も、時として生物が見せる際立った模様と解釈できよう。このように意外性を纏うゴドラ星人だが、その意外性こそがゴドラ星人を生物として息づかせている。

 またゴドラ星人には、口が無い。だがこれを補うかのように、顔の中心部に発光する部位が存在する。それはあたかも発音中枢と連動しているが如く、その明滅はゴドラ星人の発言とともにあるのだ。「発光・明滅による発音」というロジックは、『ウルトラマン』のメフィラス星人(第33話)に端を発し、『ウルトラセブン』のメトロン星人(第8話)で頂点を極めた。発光しながら喋る。この発想は、到来すべき「宇宙時代」を見据えているのであろう。

 成田亨と高山良策によるコラボレーションは、「実際にその生き物が存在するのではなかろうか?」という可能性を提示している。それを攻撃的に突き付けられた我々は、空想と現実の境目を壊しかねない畏怖の念に駆られるのだ。意識の背後にある無意識の痕跡を、意識の前面に無理矢理引き摺りだされる瞬間こそが、「ウルトラ原体験」なのである。常識と非常識が引っくり返って、日常が瓦解するのだ。

ゴドラ・ラインを描く西京利彦

 ゴドラ星人を演じたのは、西京利彦だ。その西京の体躯が描く“ゴドラ・ライン”について触れてみよう。

 面長の後頭部から背面を駆け下りる稜線は、ゴドラ星人のシルエットを形作っている特筆すべき点である。頭頂から踵までのラインを側面から見ると、そこに顕われるのは緩やかな「S字カーブ」だ。

 これはもちろん、演者である西京が作為的に前方へ突き出した腰と、それによるポージングとの兼ね合いが重要なポイントとなろう。前傾に湾曲した長い後頭部から始まる放物線は、そのまま猫背がかった背中を巻き込み、前方へ突き出された腰を経て大腿部に到る。くっと曲げた膝を折り返し点として、再び後方へ湾曲してゆくふくら脛によって、「S字カーブ」は完遂するのだ。まさに“ゴドラ・ライン”とも言うべきそのシルエットは、他の誰でもない西京利彦が中に入っているというアイデンティティを迸らせている。


 さて西京はこのほかに、ミクラス(第3話)とダンカン(第34話)を演じた。無骨で丸みを帯びた体型のミクラスダンカンを演じた西京が、スマートなイメージのゴドラ星人を演じたことは、むしろ異質だったのかも知れない。いや、西京の演技の幅の広さと言ってよかろう。肉弾戦を展開するミクラスダンカンと、奸計を弄するゴドラ星人との対照も意外性に富む。

 尚、第39話のクレジットで「西京利彦」の名が確認できるが、それはアロンを演じたものなのかそれともウインダムなのかは不明だ。だがアロンの突進姿勢に、ミクラスダンカンと同じシルエットを垣間見ることができるが、果たしていかがだろう?(ちなみに第39話でガッツ星人を演じたのは、池島美樹と思われる)

ゴドラやらゴドレイやら

 『ウルトラセブン』では、幻の作品に終わってしまった「宇宙人15+怪獣35」なるシナリオが残されている。その中でゴドラ星人は、バルタン星人メフィラス星人イカルス星人などともに「宇宙人15」の1人として登場が予定されていた。シナリオを読むと「怪獣に襲われて食い殺されるゴドラ星人」などという、血湧き肉躍るような記述が認められる。その直線のくだりでは、ゲスラネロンガに食い殺されているので、もしかしたら「ネロンガに食い殺されるゴドラ星人」の地獄絵図が見られたのかもしれない。残念の極みだ。


 ゴドラ星人は、『ウルトラファイト』(1970-1971年)の第78話「忍者ゴドラ不敵の笑い!」より、その名も“ゴドラ”として登場する。スーツの劣化が著しく、また泥土で激しく汚れているが、『ウルトラセブン』で使用された紛ごう事無きオリジナルのゴドラ星人だ。この中でゴドラは、『セブン』本編では見られなかった忍者戦法を見せた。だがその戦績は、3勝6敗と負け越している。


 そして21世紀。『2002 ウルトラセブンEVOLUTION』の「EPISODE:2 パーフェクト・ワールド」において、ゴドラ星人は再び知略をめぐらし、地球防衛軍内に潜入する。このときは更にペガッサ星人の復讐派と結託し、その野望への執着を見せた。「悪」の代名詞とも言うべきゴドラ星人が、完全な「悪」とは言い難いペガッサ星人と組むという妙味に、旧ファンはニヤリとさせられたであろう。


 また『ウルトラマンマックス』第25話に「ゴドレイ星人」なるものが登場するが、両手のハサミと身体の外側に露出した骨格構造、そして全体的なフォルムは、明らかにゴドラ星人の再着想と思われる。そもそも「ゴドレイ星人」という名称自体から、その意図は汲み取れよう。そしてこのゴドレイ星人が、その名も『ウルトラマン“マックス”』に登場すること自体が恣意的なのだ。

第4話のここに注目

 先ずは、本エピソードにおける合成シーンを挙げてみよう。『ウルトラセブン』のSF世界を彩るのは、精緻に作り込まれた地球防衛軍基地のミニチュアや、勇壮に飛行する超兵器だけではない。優れた合成技術は、架空のものと現実世界を共存せしむるのだ。

 冒頭における水平線の彼方に佇むマックス号の雄姿もさることながら、本エピソードで俄然注目すべきは、防衛軍基地の地下駐車場だ。一台しか作られていないポインターが、あたかも複数台(3台)駐車されているかのように見せかけたシーンには、合成時に発生する不自然さが殆んど見られない。まさにそこには3台のポインターが駐車しているのであり、この自然さは当時としては他に類を見ないほどである。

 心憎いのは、手間がかかったであろうこの合成シーンの使用が、僅かワンカットのみということだ。このさり気なさに、当時の円谷の懐深さが窺い知れよう。“特撮界の雄”・ツブラヤが世界に誇る技術の粋を、是非とも刮目していただきたい。


 次に挙げたいのは、各キャラクターの演技だ。ともすれば滑稽に見えてしまうかも知れないが、そこにはまだ磐石とは言い難い初期『ウルトラセブン』の世界観が見え隠れしている。その試行錯誤が可笑しくもあり、そして実に微笑ましいのだ。脚本家や監督演出の愛情さえ感じられる“名”シーンを、以下に。

  • ◆冒頭、水平線に浮かぶマックス号を見て「僕も一度は乗ってみたかったんです」というダンの子どもっぽさもさることながら、「ダン、遊覧船じゃないぞ!」と嗜めるアマギの堅物さも面白い。ダンの大らかさとアマギの真面目一徹さが、極端なキャラクター性をもって演じられている。
  • ◆迂闊にも美女(演じたのは“ターキー”こと水上滝子である)に大き目のスパナ(!)でぶん殴られてウルトラアイを盗まれてしまったダンが、治療を施すアンヌのモーションも何処吹く風、気もそぞろな態度を示すくだりなんかはヤキモキさせられる。鈍感な色男に肘鉄を喰らわせたい。ダンとアンヌのラブストーリーの胎動期とも言えよう。
  • ◆マックス号に乗り込んだソガが、タケナカ参謀から乗り心地を問われ、思わずニコニコ顔で椅子の肘掛に手をやる姿は物見遊山の子どもそのものだ。そのソガに行き先を聞かれて「地獄だ!」と応えるタケナカ参謀の恰幅なんかは、まるで子どもをあやす父親のようである。ほのぼの感から緊迫感への様変わりを、是非見ていただきたい。
  • ◆圧巻はゴドラ星人がダンに変身するシーンだ。両手のハサミを振り上げながら膂力を誇示し「はっはっはっはっ」と快活に笑う“ゴドラ・ポーズ”そのままに、ダンの姿になってもその余韻を残すくだりは、また違った意味で「ウルトラ原体験」である。悪者然としたダンの口振りとともに、是非とも楽しみたい。

 本エピソードの脚本を手がけたのは山田正弘(金城哲夫との共著)だが、山田作品には欠かせない「子ども」が劇中では一切見られない。だが以上のように、随所に散りばめられた子どもらしさに「山田色」が窺えるのだ。ウルトラを愛する慈しみの目で、暖かく見守るように鑑賞してほしい。




等身大と巨大化

 『ウルトラセブン』では前作『ウルトラマン』とは打って変わって、ウルトラセブンが等身大の大きさでも活躍する。これはスピード感溢れるストーリー展開を意図としたものなのだが、またこれによってウルトラ警備隊との連帯感も高じよう。そして最も肝要なのは、“侵略宇宙人もの”を謳うSF世界において、セブンと対峙する侵略者が必ずしも巨大ではないということだ。

 我々とスケールが同等であるということはすなわち、宇宙人による侵略行為が日常と隣り合わせであるという、極めて身近な「距離感」を示す。地球防衛軍基地に潜入し、動力室の原子炉に爆弾を仕掛けたのは、もちろん等身大のゴドラ星人だ。夜の住宅街を脅かしたワイアール星人(第2話)やアンヌの部屋でその姿を現わしたペガッサ星人(第6話)、ガソリンスタンドを襲撃したキュラソ星人(第7話)や古アパートの室内であぐらを掻き卓袱台を挟んでダンと対峙したメトロン星人(第8話)、百貨店屋上に追い詰められその異形を顕わにしたチブル星人(第10話)など、これらはみな「侵略」と我々の「日常」がすぐそはにあるということを示した例である。やみくもに巨大化して街を破壊する“怪獣もの”ではなく、“侵略宇宙人もの”が抜け目なく仕掛けられた世界観に、見るものは惹き込まれるのだ。

 もちろん『ウルトラQ』・『ウルトラマン』を彩った“巨大”世界も、『ウルトラセブン』は継承している。健在だ。何となれば特撮こそが、円谷プロの本懐なのだから。等身大と巨大化の匙加減。使い分け。その絶妙さこそが『ウルトラセブン』の魅力であり、前述したスピード感溢れるストーリー展開もそのバランスによって保たれるのである。

 ともあれ、ウルトラセブンが等身大と巨大化の両方に渡って縦横無尽に活躍したのは、本エピソードが初だ。物語の後半、爆発時間が刻一刻と迫るさなか、ウルトラアイを奪回し変身したセブンによる逆転劇がスリリングに且つスピーディーに展開してゆく。地下動力室内から屋外へ、更に間髪入れず宇宙へと移りゆく戦いの舞台。等身大、巨大化、再び等身大。この目まぐるしさの中、バックに流れる勇壮なBGM(NG版主題歌のインストルメンタル)も忘れ難い。等身大時にはバッタバッタとゴドラ星人をなぎ倒し、巨大化時においては悠然とした構えでゴドラ星人を撃ち落すウルトラセブン。見るものはその緩急にも、翻弄され幻惑されるのである。

 スピード&スリリング&コントラスト。これらが拮抗しせめぎ合うドラマ展開こそが、『ウルトラセブン』の新たなる試みなのだ。

金城哲夫、苦悩の中

 さて本エピソードの脚本は、メインライターである金城哲夫による。尚、本作品は前述したように山田正弘との共著だ。『ウルトラセブン』の番組方針とそれによる金城の苦悩については、第1話のクール星人の項目で詳述してあるのでそちらを参照していただきたい。かいつまんで言えば、玩具などのキャラクター商品化を積極的に行うために、ウルトラセブンや軍隊的性格を持つウルトラ警備隊が、劇中において勇壮に活躍すること。そのための「勧善懲悪」は必須で、結果的に金城が描かなければならなかったのは強い「地球ナショナリズム」だ。これは金城にとって「不本意」のほかの何物でもなかったということである。

 登場する宇宙人には最早「地球を脅かす侵略者」以外としての余地は無く、この方針は第1話のクール星人から徹底された。地球侵略の前準備として人間標本を採取するクール星人、他天体にまで繁殖の覇権を得ようと地球をその標的とするワイアール星人(第2話)、まるで宝石感覚で地球を我が物にしようとするピット星人(第3話)など、描かれたのは「完全なる悪役」だ。

 本エピソードに登場するゴドラ星人も、もちろん「完全なる悪役」として描かれている。地球防衛軍基地破壊のためにめぐらした策略のあれやこれやは、周到で卑劣極まりない。第1クール内においてはこのほかに、ビラ星人(第5話)・キュラソ星人(第7話)・メトロン星人(第8話)・チブル星人(第9話)・イカルス星人(第11話)・スペル星人(第12話)・アイロス星人(第13話)と、前出4体と併せれば実に13話中11話について確固たる悪意を持った宇宙人が登場する。これらに対して同クール内における「悪意の無い」宇宙人の登場は、第6話「ダーク・ゾーン」(脚本:若槻文三)のペガッサ星人と第11話「魔の山へ飛べ」(脚本:金城哲夫)のワイルド星人の、僅か2本を数えるばかりなのだ。

 このように『ウルトラセブン』の物語は、特にその初期において、ウルトラ警備隊の超兵器の勇壮さとともに、「善(人類)対悪(宇宙人)」の構図が極めて顕著なのである。先にも述べたがこの第4話も、地球侵略のために防衛軍基地爆破を目論むゴドラ星人と、それを阻止しようとするウルトラ警備隊の戦いが、新造原子力船「マックス号」の登場とともに(目立った活躍は無いが)、スリリングなストーリー展開で描かれている。『ウルトラセブン』が掲げた勧善懲悪に沿った忠実なストーリーで、お手本的な優秀作と言えよう。

 爆発時間が刻一刻と迫る中、地下動力室におけるセブンとゴドラ星人の攻防が展開し、そこにアマギの報告によってキリヤマが駆けつけるタイミングが実に絶妙だ。そして危機から攻勢へ打って出る形成逆転のクライマックス、勇壮な楽曲に乗ってゴドラ星人を掃討するウルトラセブンの雄姿は、まさに娯楽作品の象徴であると言えよう。

 作品製作にあたって作家の思想も大切だが、同じように「見せる」ということも大事である。『ウルトラセブン』の第1話から第4話までの連続4本の脚本を手がけたのは、ほかならぬ金城だ。番組の方針によって、半ば強制された「地球ナショナリズム」という不本意。「善」を強調するがための、誇張された「悪」。大義名分の下、滅ぼされる「異種族」の命。これに苦悩しながらも立ち向かった執筆作業による痛みは、想像を絶する。だがそれでも「見せる」ことに従事した金城の作家としての奥深さを、この第4話で我々は思い知るのだ。

























ウルトラ 場外 ファイト

 「ゴドラ星人」というネーミングは、イタリアは“水の都”・ベニスのゴンドラに由来。船舶を消失させるところから、「水」に関係したものとして着想を得ている






















ウルトラ 場外 ファイト

ゴドラ星人は、
一体何人居たのだろう?
劇中の判る範囲内、
死の足跡を追って
カウントしてみよう。
  • ◆アマギがマックス号脱出の際、戸口の見張り役がフルハシの射撃によって倒された。
  • ◆美女に化けウルトラアイを盗んだ個体は、防衛軍基地動力室でセブンのエメリウム光線によって絶命。
  • ◆フルハシになりすまし原子炉に爆弾を仕掛けた個体は、その後ダンに化け更に巨大化、セブンのエメリウム光線を受け空中爆発を遂げた。
  • ◆マックス号を占拠していたものは、人質救出のために乗り込んで来たセブンによって、
    • チョップで1体、
    • キック&チョップで1体、
    • エメリウム光線で1体と、
    合計3体が連続死。
  • ◆セブンがマックス号脱出を促す際、船室に入って来た1体がセブンのハンディショットで倒された。

以上ゴドラ星人は、劇中少なくとも7体が姿を見せる。それ以外の残りはセブンが仕掛けた爆弾によって、マックス号もろとも全滅した。何人のゴドラ星人が船内に居たのかは不明だが、相当数であろうことが窺える。




ウルトラ 場外 ファイト

身体の外側に
骨格構造が露出した成田怪獣
骨骨ファイト!


  • 『ウルトラQ』
    ◆ガラモン(第13・16話):
    四肢の節くれは、
    剥き出した骨格と言えよう。
  • 『ウルトラマン』
    ◆バルタン星人(第2話):
    腕の関節構造が、
    脱皮を必要とする
    外骨格生物のそれだ。
    ◆ゲスラ(第6話):
    下肢と尻尾に、
    表面骨格の質感を見る。
    ◆ガバドンB(第15話):
    肉だけ削がれ、
    骨が剥き出しになったような
    四肢。
    ◆アボラス(第19話):
    恐竜の骸骨顔が恐ろしい。
    ◆バニラ(第19話):
    「露出」とまではいかないが、
    首や四肢に
    骨が浮き出ている。
    ◆シーボーズ(第35話):
    骨格怪獣の決定版は、
    亡霊の如く虚ろな身体だ。
  • 『ウルトラセブン』
    ◆ゴドラ星人(第4話):
    頭部側面を走る骨格構造は、
    生物として実にリアル。
    ◆チブル星人(第9話):
    巨大な頭脳を
    覆うオブジェは、
    頭皮と言うより
    頭蓋骨と言うべき。
    ◆ベル星人(第18話):
    脇腹には、
    剥き出しになったアバラ骨。









ウルトラ 場外 ファイト

 怪獣や宇宙人の電飾は、
『ウルトラQ』 の頃より機電を
担当してきた倉方茂雄による
仕事だ。
倉方は単に目を光らすだけではなく、口や発語器官に相当する部位の無い宇宙生物に、
発光や明滅を施すことによって、
生物としての「息吹き」を与えたのである。その生命づけの仕事っぷりを列挙してみよう。

  • 『ウルトラマン』
    ◆メフィラス星人(第33話):
    口にあたる部分の
    黄色い発光は、
    まるでゼリー菓子のような
    輝きを放つ。
    ◆ゼットン(第39話):
    顔面中央部を上下に走る
    大胆な明滅部位は、
    「最強」の名に相応しい。
  • 『ウルトラセブン』
    ◆ゴドラ星人(第4話):
    顔中央部の緑色の明滅は、
    あの悪役然とした声を発す。
    ◆ペガッサ星人(第6話):
    超文明を築いた饒舌者は、
    胸部の発光で主張する。
    ◆メトロン星人(第8話):
    デコトラさながらの
    派手な発光と明滅は、
    その登場シーンとともに
    衝撃的だ。
    ◆ベル星人(第18話):
    顔面部の
    透明素材が映える明滅は、
    発光昆虫を髣髴とさせる。
    ◆プロテ星人(第29話):
    扇状の発光は、
    その異形を自ら闇夜に
    映えさせる。
    ◆ペテロ(第35話):
    暗く寒い厳しい
    環境下において、
    物言わぬ生物は
    光でもって存在を知らしめる。



























































































ウルトラ 場外 ファイト

 マックス号の艦長を演じたのは幸田宗丸という、それこそ船の名前のような役者だ。
 幸田はこのほかに

  • 『ウルトラマン』 第2話
    「侵略者を撃て」で、
    防衛隊の幕僚の一人
    を演じている。
    高位の役柄が多いようだ。
  • また
    『ウルトラセブン』 第25話
    「零下140度の対決」では、
    極寒と戦いながら
    動力源の復旧作業に
    従事する隊員たち中で、
    彼らをサポートする
    医療隊員・アラキ
    として出演している。
  • その後
    帰ってきたウルトラマン』 第13話
    「津波怪獣の恐怖東京大ピンチ」の
    保険調査員・木島役、
  • 同 第25話
    「ふるさと地球を去る」における
    MAT地質調査班長役を経て、
  • 『ウルトラマンA』 第1話
    「輝け!ウルトラ五兄弟」では
    ベロクロンによって
    撃ち落される防衛隊隊長

を演じた。































ウルトラ 場外 ファイト

等身大と巨大化。
両スケールで
『ウルトラセブン』に登場した
宇宙人、伸縮ファイト!

※但し、等身大時に
人間の姿であったものは除く
◆ワイアール星人(第2話):
821区世田谷区岡本町界隈

小田急線ロマンスカー車内

トンネル内で 巨大化
◆ゴドラ星人(第4話):
地球防衛軍極東基地
地下18階第二動力室

防衛軍基地地下駐車場

ポインター

基地周辺野外で 巨大化
◆キュラソ星人(第7話):
三ツ矢峠山中

三ツ矢峠近辺の
ガソリンスタンド

水野家

ポインター

地球防衛軍極東基地

ウルトラホーク1号の
β号で逃走中、
炎上の際に 巨大化
◆メトロン星人(第8話):
北川町の2階建て
古アパートの一室

巨大化
◆バド星人(第19話):
宮部博士の邸内

屋外で 巨大化
◆ボーグ星人(第27話):
地球防衛軍極東基地

基地外で 巨大化
◆プロテ星人(第29話):
京南大学物理学研究室

大学敷地内で 巨大化
◆プラチク星人(第30話):
マグマライザー車輌内

星ヶ原
野戦訓練地にて 巨大化
◆ガッツ星人(第39・40話):
第3地区道路上

巨大化

泉ヶ丘でも巨大化

等身大で宇宙船内
◆ペロリンガ星人(第45話):
世田谷区の天体望遠鏡店

上空もしくは宇宙空間(?)
巨大化
◆フック星人(第47話):
ふくろう団地の各部屋

団地敷地内にて
3体が 巨大化


































ウルトラ 場外 ファイト

 劇中、ゴドラ星人の如何にもな
「悪者」らしい声を演じたのは
小林恭治である。

  • 『おそ松くん』
    (1966.2.5-1967.3.25)の
    イヤミ
  • 『巨人の星』
    (1968.3.30-1971.9.18)の
    ナレーション
  • 『太陽にほえろ!』
    (1972.7.21-1986.11.14)の
    予告ナレーション

で、お馴染みの声だ。
小林の
特撮における仕事としては、

  • 『スペクトルマン』
    (1971.1.2-1972.3.25)での
    ネヴュラの声

    ナレーション
  • 『サンダーマスク』
    (1972.10.3-1973.3.27)の
    ナレーション
  • 『鉄人タイガーセブン』
    (1973.10.6-1974.3.30)の
    ギル太子、
  • 『大鉄人17』
    (1977.3.18-11.11)の
    ナレーション

    後期のワンセブンの声

などが挙げられる。
沈着でよく通る声は、どうも
ナレーション向きらしい。




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悪知恵の体現者、ゴドラ星人












































ウルトラは、抽象表現の実験場だ

























剥き出しにされた骨格構造





















オルタナティヴを提示する知的生命体の手













宇宙時代の光る対話



















“ゴドラ・ライン”と西京怪獣






昭和ゴドラのアナザー・ファイト!








新世紀のゴドラ星人
















そこには3台のポインターが存在した





















ゴドラ星人からダンへの変身に刮目










日常の目線で繰り広げられる等身大の侵略








等身大と巨大化がせめぎ合う






























番組方針によって徹底される「悪」








「不本意」を抱えつつも、金城は「見せる」


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